アラームと共に施設職員の人の声掛けがあって僕は目を覚ました。
目を開くと面白いものが沢山な夢の中とは違う、質素な孤児院の壁やら花瓶やらが目に付いた。
窓の外は明るく、眩しい。
目を細めながら僕は窓の無い、扉の方を見た。
そっちには先程の声の主である職員が突っ立っており、僕と目が合った瞬間に少しだけ眉毛を動かした。
僕への腫れ物扱いはなんとも分かりやすく、稀に人間だとは思えない、とまんま顔に書いてある状態で僕を見てくるやつすらいる。ここの人達はみんなそうだった。…一人以外は。
したくもない挨拶を交わしながら朝食の場へ向かう途中、周りを見ると僕を見かけて駆け寄ってくる少年が一人。
僕がそう挨拶を返すと、何の気もなしにそいつ…俊は僕の隣を気ままに歩いた。
……そういえば昨日なんだっけ。夢の中の体感時間が長すぎて忘れてた。
俊の目も見ずに答えると、俊も僕の目なんか見ないまま会話する。
それが僕達の温度感だった。
苦しい訳じゃないけど好きになれないような、包み隠さずに言って僕は俊のことが苦手である。
他の奴らよりはずっとマシだから一緒にいるけど本当なら避けているタイプで、僕はこいつの意図がよく分からない。
フレンドリーだし、僕みたいな目をしてる訳でもないから、きっと僕なんかと関わってなければたくさん友達がいただろうに。
そう言って僕の背中をバシバシ力強く叩く。
………………苦手である。
そのままダイニングに向かうと、既に食事が用意されているのか美味しそうな匂いが漂っていた。
健康に気を遣われた朝食は味気なく、僕にとっては単刀直入に言って不味い。
隣で「美味いな〜」と笑っている俊には適当な返事をしておいた。
登校、学習、帰宅、宿題、夕食。
それらを一通り終えると日は沈み窓の外は暗くなる。
夜は元々嫌いじゃなかった。
海へ散歩に行くのにここを抜け出すのが日課だったから、毎日わくわくしながら僕は夜の訪れを待つ。
それに比較しても今日は一段と楽しみだった。
望めば叶う場所で、僕のことを腫れ物扱いなんてしない人達と遊ぶのは僕にとって現実よりも遥かに気楽で楽しい。
現実が楽しくなさすぎるっていうのもあるけれど。
消灯された部屋の電気を眺めながら、僕はゆっくり目を閉じる。
すぐに寝られるはずはないと思って目を開けば、既に夢の中にいて驚いた。
そこは前の続きみたい。鏡花の夢の中で琉乃と鏡花が僕を出迎える。その手元には作りかけの花冠があった。
確かに鏡花が編んでいるそれに対して、数倍は不格好なものが出来上がろうとしている。
僕はどうだろう。もう少し上手くできる自信はあるが。
鏡花は口元をにへらと綻ばせて、少し嬉しそうに花冠を作り直す。僕に手元が見えるようにして、分かりやすく説明してくれた。
手元で弄っている青色は、深くて、柔らかくて、鮮やかだ。きっとどんなことをしても包み込んでくれる。
強かな海を、僕は懐かしさと嫌悪でよく分からない感情と共に、それを"好き"だと形容して形を取り持つ。
いつか見たあの日の海は穏やかだった。
捨てられた日、拾われた日………殺した日。
あの気味が悪い臭いと人間を全力で殴打した後の凍るような息切れのことは一生忘れないだろう。
だからこそ僕はそれを心の奥底へ閉まって、出てこないように閉じ込めたのだ。
拝啓 僕を拾った峻へ。
君にはこの深い青色の花冠を贈ってあげる。
好きでしょ?海が。
____『 何をしても許されそうだから。 』
僕は出来上がってもいない作りかけの花冠を、憎悪を込めてそっと撫でた。
















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!