第7話

4.
1,936
2023/05/29 14:00



北斗side










人違いなわけなかった


振り解かれた手を


もう一度掴もうとしたけど


人混みに紛れて


呆気なく見失った



樹「え、本物?」



隣で固まっている樹


俺も今起きたことを理解するのには


頭があまりにも追いつかない



樹「とりあえず、今はスタジオ向かお」

北斗「は、無理でしょ、あなたちゃんいたんだよっ、?!」

樹「見間違えかもしれないし、」

北斗「そんなわけないって!!」



あんなに好きだった人を


あんなに惚れてた人を


見間違えるなんてあり得ない



樹「北斗、今の自分の立場わかってる?」



樹のいつもより低い声に


少しだけ冷静になった



樹「俺らアイドルだよ?」



ああ、そうだ


ファンがたくさんいて


応援されていて


わかってる。


わかってるけど、


今更、こんなふうに再会して


忘れろなんて言う方が無理あるだろ



樹「北斗っ、」

北斗「わかったって」



なんとか抑え込んで


その日の夜のラジオのためスタジオに向かった


ずっとぼーっ、としている俺に


樹がお便りの一つを読み上げる



樹「えー、樹くんと北斗くんは忘れられない人はいますか!と言うことで!」



目の前の樹はあからさまにわざとで


ニヤニヤしながらこっちを見ている



北斗「お前絶対言うなよ」



そんな俺をさらに面白がって


あなたちゃんの1文字目のひらがなを


口パクで言って煽ってくる



樹「まあまあまあ、これ生放送ですからね」

北斗「あっちにも迷惑かかるし」

樹「それはもう、認めちゃうってことで良い?」

北斗「あー!もう!認めるよ!!」



そう言ったは良いものの


さっき樹に言われた通り


俺らはアイドルだ



北斗「昔の話ですよ?樹が言い出さなかったら忘れてたからね、俺」

樹「ほんとにー?」

北斗「ややこしくすんな」



ファンを安心させるために嘘をついた


ものすごい罪悪感があったけど


あなたちゃんとは


元担任と、元生徒


それだけの関係に過ぎない


付き合ったわけでもあるまいし


こっちが意識し過ぎてるだけで


あっちは忘れてる


今日だって、俺って気づかなかったから


人違いって言ったんだ


それは、認めたくないがための悪あがきだった









プリ小説オーディオドラマ