「クリオネ、ハクガン」
「アイアイ」
「お易い御用だキャプテン」
振り下ろされた刃は腹を貫き、突然横から現れた黒服は衣服の上からも分かるように赤黒いシミを作っていく。時々歩く振動で肩が痛んで苛立ちを覚えるが、ここの家主とは一緒にされたくないよう、ドサッと倒れた人間を踏まないように避けて歩む。数名を船に残し天竜人に因縁があるジャンバールと視野が広いイッカクは後方を、クリオネとハクガンは中層、そして前方に戦闘慣れしたシャチとペンギンとベポをつかせる。
鈍い音とともに騒ぎの声がしんと静まり、城内は廊下を歩く数名の靴音しか響かない。あれだけ部下の悲鳴が城中に響くと容易に上階に届いて、事前に手配していた海軍や政府の人間が邪魔してくるだろうと想定していたが、一向に兵が見当たらないあたりまだ寄越していないことに疑問を抱く。何人かを外部と連絡が取れる通信室へ向かうよう指示したが、そう早く簡単に見つかるはずがないため尚更困惑する。
「しっかしあなたは何処にいるんすかね」
「あなた大丈夫かなぁ…」
「まだ何もされてないといいけど…」
「何かされていたら私が許さないわ。いや、もう連れ去っただけで許せない」
「イッカクに同感だ」
襲ってくる黒服がいなくなって固く閉じていた口を開けるクルーたちに、城内全ての部屋をくまなく調べてあなたを探すよう指示を出すと各自バラけて捜索を始めた。
城の端から端までいくつ部屋があるか分からないほど広く大きく、それが何階もあると思うと気が遠くなりそうだがそうは言ってられない。さっきから見聞色の覇気を使っているが何かが妨害してかき消されているような感覚があり、さらに苛立ちが増して舌打ちが漏れる。
極寒の地で観光客もまばらな、こんな辺鄙な島に俺の覇気を超える力を持った人物はたった一人しか思い浮かばない。
「…いつまで隠れているつもりだ」
「…さすがだな」
ぬるりと廊下の壁が歪んだと同時に、壁からでてきた黒い影は一瞬にして目の前に現れる。咄嗟に鞘から鬼哭を抜いて受け止めると、金属同士が擦る音が響いた。
最初会った時から思っていたが、この爺さん只者じゃねぇな。
「こうしてあなたを連れ戻しに来ると思うておったぞ海賊」
「あいつは俺のクルーだからな、迎えに来るのは船長の仕事だ」
両者一歩も引かない互いの刀はギシギシと音を立てて鍔迫り合いを続ける。このままではどちらかの体力が悲鳴をあげて、力が抜けた一瞬の隙に勝負が決まる。薙ぎ払うにも今以上の力を持ってしないと意味がなく、最悪失敗に終わって刀を振り下ろされて床が真っ赤に染まるだろう。
さてどうする…。
「…っ」
「!!」
たった一瞬。ほんの数秒、ヴァルファーの力が弱まった隙に薙ぎ払って急いで距離をとる。すぐさま刀を持っていない左手を伸ばして自身のテリトリーを作る。
「"ROOM"」
「"シェルルーム"」
「"シャンブルズ"」
「…おわっ!?」
地面に手をつけて床を変形させ、卵の形をした殻のような頑丈な部屋を作り出すヴァルファー。しかし所詮ROOMの中では人間ごときは胴体切断や場所移動など自由自在に操れる。シャンブルズで傍にあった石ころとヴァルファーを入れ替えると、目の前の景色が一気に変わったためか驚いた顔をして尻もちをついた。首元に鬼哭を当てるとこめかみから汗を流してこちらをそっと見上げる。
「あなたはどこにいる」
「ふ、ふん。知らぬわい」
「ヘヤヘヤの能力で城の部屋を自由自在に行き来できるお前が知らねぇはずがねぇ」
「…………」
「………なるべく殺したくはねぇんだ、医者なんでね」
「………のか」
「あ?」
「お主はあなたの偽名を、あなたを救えるのか」
首元に当てられている冷たい刃に目を閉じる。
「……何が言いたい」
「あなたの口から聞いていないのか、初代あなたの偽名様は海賊の手によって殺されたのだ」
「っ………」
「昔、あなたの偽名様とわしは医療にかけた海賊の船に乗っていた。一見普通の海賊だったが、政府にバレぬよう裏では耳を疑うような恐ろしい人体実験を行っていてな。不老不死や自然治癒能力の研究、さらには人間を巨人化させる薬まで作っていた」
「…………」
「もちろん、裏でこんなことをしていると知らなかったわしらはある島で船長の許可無しに船を降りた。誰にもバレぬよう密かに暮らし始めて数年後に、最愛の娘であるあなたに出会ったのだ」












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!