バーテックスの群れが完全に消滅した後も、金は動かなかった。その場に立ち尽くし、全身から放たれる多色のオーラは、まるで彼女の複雑な内面を映し出しているかのようだった。鷲尾須美と乃木園子は、呆然と立ち尽くす金の姿を、ただ見つめることしかできなかった。勝利の安堵はどこにもなく、残されたのは、圧倒的な恐怖と、拭い去れない深い疑念だけだった。
園子の声が、震えながら静寂を破る。彼女は恐る恐る金に一歩近づこうとしたが、須美がその腕を掴んで制止した。
須美の表情は硬い。かつての銀の犠牲を思い起こさせるような、そんな種類の痛みが胸を締め付けていた。金が手に入れた力は、あまりにも常軌を逸している。そして、その力を使うたびに、彼女から「人間らしさ」が失われていくように見えた。
金は、ゆっくりと顔を上げた。その瞳は、以前にも増して感情を読み取れず、まるで遠い宇宙を見つめているかのように空虚だった。須美は問いかけた。
金は、その問いに答えなかった。いや、答えられなかったのかもしれない。彼女はただ、自身の掌に視線を落とし、まるでそこに何かを探しているかのようにじっと見つめていた。その掌には、わずかに光るT2ガイアメモリの輝きが残っていた。
遠ざかる心
その日以来、金はさらに孤立していった。学校にはほとんど姿を見せず、勇者としての任務がある時だけ、音もなく現れては、圧倒的な力でバーテックスを殲滅し、そして音もなく去っていく。須美と園子がいくら語りかけても、彼女は最小限の反応しか示さない。まるで、言葉を忘れてしまったかのようだった。
大赦もまた、金の異様なまでの力に驚愕し、その出所を探っていたが、何も掴めないでいた。彼女が独力で手に入れた「記憶」の力は、神樹のシステムとも異なる、未知の領域だったのだ。しかし、バーテックスの猛攻が続く現状では、彼女の力を頼らざるを得ないのが実情だった。
須美は、夜な夜な銀のことを思い出していた。銀がいた頃は、どんなに辛い戦いの後でも、笑い声が響いていた。しかし、今は違う。金がどれだけバーテックスを倒しても、その場に安堵の笑顔は戻らなかった。
園子は、そう言って涙をこぼすことが増えた。
須美は、その言葉に何も返すことができなかった。金は、確かに多くの命を救っている。しかし、その代償として、彼女は自分自身を削っているのではないか。銀を失った悲しみと、二度と失いたくないという強迫観念が、彼女を怪物のような存在へと変えつつあるのではないか――。
その夜、須美は決意した。金が手に入れた力の真実を突き止める。そして、もしその力が彼女を蝕むものならば、たとえそれがどんなに困難な道であろうとも、金を取り戻す、と。しかし、その時、彼女はまだ知らなかった。金が踏み入れた「記憶」の深淵が、どれほど計り知れないものであるかを。


















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。