第106話

94.あなたも
119
2025/11/23 07:56 更新
妻が鬱の期間に入ったらしい。

そうなれば俺がそばにいても意味はない。

ナタン
ナタン
アディ、大丈夫だ。大丈夫だからな
アドラシオン
アドラシオン
ごっ、ごめんね…っ…
ナタン
ナタン
いいんだ。大丈夫。お前は何も悪くないから


看護師さんに「お辛いでしょうけど、そばにいてあげてください」と言われたので、妻の隣で背中をさするが、正直意味があるのか疑ってしまう。

アドラシオン
アドラシオン
……
ナタン
ナタン
?どうした?


いきなり顔を上げ、窓の外を眺めた。

日に焼けていない白い指が窓を伝った。

アドラシオン
アドラシオン
……屋上に行きたいわ
ナタン
ナタン
屋上か


アディがよく行く場所だと知っている。

ナタン
ナタン
わかった。じゃあ一緒に……
アドラシオン
アドラシオン
いいの。1人で行くわ
ナタン
ナタン
……大丈夫なのか?
アドラシオン
アドラシオン
…大丈夫、大丈夫よ
ナタン
ナタン
……わかった


一人にさせる不安を感じながらも、ここで余計に刺激をすると大変なことになる。


ここは引き下がるべきだ。

アドラシオン
アドラシオン
少し、日を浴びるだけだから


なにかに吸い寄せられるような足取りで、ふらふらと部屋を出ていった。 

アドラシオン
アドラシオン
……


廊下に立っていた看護師に声をかけた。

アドラシオン
アドラシオン
463号室のあなたのfirst name・あなたのfamily nameを呼んでくれるかしら
.
?はい、わかりました
.
ベルトランさん、お身体の方は大丈夫ですか?
アドラシオン
アドラシオン
ええ。だいぶマシになったわ
アドラシオン
アドラシオン
あなたのfirst nameちゃんには屋上に来るように言ってね




屋上に来ると、フェンスに身を委ね座り込んだ。


がしゃんと錆びた金属の音が鳴った。

アドラシオン
アドラシオン
はぁ、はぁ……


少し歩くだけでも身体がしんどい。胃の中がムカムカして気持ち悪い。


背中をじっとりと脂汗が伝っているのがわかる。


あなたのfirst nameちゃんはまだか。


体力に限界を感じ始めたとき、屋上の扉がゆっくりと開いた。

(なまえ)
あなた
お待たせしました


本当に以前は笑顔の多い子だったのだろうか。


その面影を少しも感じさせないほど、無機質な声が聞こえた。

アドラシオン
アドラシオン
大丈夫よ。わざわざ来てくれてありがとう


ゆっくりと腰を上げ、入院服のワンピースの裾を整えた。

(なまえ)
あなた
何か用ですか?


風が強くて、さっきまでかいていた汗も冷えてしまった。



話そうと口を開いたとき、言葉の代わりに吐き気がこみ上げてきた。

それを飲み込み呼吸を整える。


話すと決めた。今日、今、話さなければ。

アドラシオン
アドラシオン
……悩み事があるとき、よくここに来ると言ったわよね
(なまえ)
あなた
はい。覚えてます
アドラシオン
アドラシオン
どうしてかわかる?
(なまえ)
あなた
わからないです
アドラシオン
アドラシオン
………



口の中で空気を飲み込んだ。

アドラシオン
アドラシオン
……飛び降りるか、飛び降りないか


唇が震えていた。

(なまえ)
あなた
え?
アドラシオン
アドラシオン
ここから飛び降りたら、どうなると思う?
(なまえ)
あなた
……
(なまえ)
あなた
死ぬと思います
アドラシオン
アドラシオン
ええそうよね。当然よね
アドラシオン
アドラシオン
死にたい。でも怖い。でも生きる資格なんてない
アドラシオン
アドラシオン
いつもここで悩んで思いとどまって部屋に戻る。そんな生活を2年
アドラシオン
アドラシオン
2年間も続けてきたの。馬鹿みたいよね
(なまえ)
あなた
………


いつも伏し目がちだった瞳が少しだけ見開かれていた。


いきなりこんな話をしたのだから当然だろう。

(なまえ)
あなた
生きる資格が、ないっていうのは
アドラシオン
アドラシオン


お腹の下のあたりに手を当てた。


まだ覚えてる、あの感覚。


二度と忘れない。私が永遠に追い続ける妄想。

アドラシオン
アドラシオン
お腹に、赤ちゃんがいたの
(なまえ)
あなた
アドラシオン
アドラシオン
ねえ、一つ聞いていい?


奥歯を噛み締めて、あなたのfirst nameちゃんの顔を見た。


滲んでよく見えなかった。

アドラシオン
アドラシオン
私がっ、ここから飛び降りたら、あなたのfirst nameちゃんも着いてきてくれるかなぁ?

プリ小説オーディオドラマ