鈴佳が亡くなり三日が経った 。

　　　探偵社の皆は鈴佳が亡くなった事を識らない為

　　　何時（いつ）もと変わらない日常を過ごしていた 。

　　　変わった事と云えば 、 先日迄居た

　　　ボブカットの女性の姿はなく

　　　一つの机の上には資料が山のように積まれ

　　　物置き場と化していた 。

　　　横にしていた躰をいきなり起こし

　　　出口に向かっていく太宰の背中に

　　　手を停めずにそう声を掛ける 。

　　　太宰は薄ら笑みを浮かべて一言告げ

　　　探偵社を後にした 。

　　　ドストエフスキ - は一人 、 

　　　ヨコハマの暗い裏路地を歩いていた 。

　　　振動する端末を衣嚢（ポケット）の中から取り出し 、 

　　　進む足を止め画面釦（ボタン）を押して電話に出る 。 

　　　通話越しの男は自身の頸に填められている

　　　特殊な頸輪を触り乍らそう懇願する 。

　　　その男は半年前 、 鈴佳の諜報員（スパイ）疑惑を

　　　密告した探偵社の事務員だ 。

　　　彼はドストエフスキ - の手駒 .. と云うか 、

　　　正確には遠隔操作用の爆弾が仕込まれている

　　　頸輪を填められ 、 脅されて探偵社に入った 。

　　　抑々（そもそも）彼自身が諜報員だったのだ 。

　　　頸輪には左に青 、 右に赤の釦が施され

　　　何方かが正解 。 押されると

　　　外される仕組みになっているのだ 。 

　　　ドストエフスキ - の云う通りに　

　　　青の釦を押した男の頸は吹き飛んだ 。

　　　爆発音と共に消え去った男の声を確認し

　　　通話を終了の釦を押す 。

　　　それから数分前から離れない視線に耐えきれず

　　　くるりと後ろを振り向く 。

　　　数米（メ - トル）距離をとり笑顔で会話をしているが 、

　　　互いに相手の隙はないか言葉の真意はと

　　　頭は常人に追いつけない速さで回っている 。

　　　ドストエフスキ - は怪しげに笑った 。

　　　元々検討はついていたのだろう 。

　　　薄暗い路地裏に乾いた笑いが響く 。

　　　本気なのだろう 、 二人共目が笑っていない 。

　　　数秒の沈黙の後 、 太宰が口を開く 。

　　　互いの顔を見ないよう背を向け乍ら話す 。

　　　二人の間に烏の羽が一枚ひらりと落ちた 。

　　　唐突に太宰が口を開く 。

　　　ドストエフスキ - は静かに耳を傾けた 。

　　　意味有りげな言葉を残して太宰は去った 。

　　　ドストエフスキ - もまた 、 何かを

　　　察したように不敵に微笑み其の場を去った 。

　　　後日 、 探偵社 。

　　　空は既に夕焼け色に染まっていた 。

　　　何時も遅刻している太宰の姿は未だにない 。

　　　大量の資料を両手で抱えた宮沢がそう告げる 。

　　　国木田以外の探偵社の人間は当然知っていた 。

　　　鈴佳の解雇 、 事務員の謎の死亡等で

　　　頭の中が沢山だったのだ 。

　　　頬をかき乍ら苦笑を漏らす谷崎の言葉に

　　　溜息をつき眼鏡を掛け直す 。

　　　鈴佳は本当に亡くなったのか 。

　　　太宰が渡米した意味とは 。

　　　ドストエフスキ - は何を企んでいるのか 。

　　　抑々鈴佳の異能とは何か 。

　　　探偵社の真意は 。

　　　何が本当で何が嘘か 、 その真実にいち早く

　　　迫っていたのが ＿＿＿＿＿

　　　太宰治だった 。

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