私、美濃 清華という人間を一言で言い表すならば、それは『怠惰な勤勉』だ。
一見、この言葉は相反し、矛盾していると思われるだろう。
しかし、本当にそうだろうか?
良く考えてみて欲しい、現在の日本は『学歴社会』とも揶揄される程に卒業する大学のレベルによって、就職や収入・社会的評価等が大きく左右する。
つまり、たかだか10年の学生時代に努力をすれば、今後40、50年以上の人生でその分楽をする事が出来るのだ。
世の学生共は青春という名の甘い誘惑に誘われ、勉学を疎かにする傾向がある。
この絶好の機会をみすみす見逃すなど、愚行と言う他に表す言葉が見当たらない。
故に私は、この現代日本の仕組みに気づいたその日から今日この日までほどほどに努力を続けてきた。
その甲斐あってか、私は今住んでいる地域ではかなり高い偏差値を誇っている高校に首席で合格することが出来た。
程々に、波風を立てることなく順風満帆に高校生活を送っていたある日、廊下で突然、そんな事を言われた。
綺麗な人だと、まるで妖精のようだと、そう思った。
私なんぞ、嫉妬する事すら不敬に当たるのではないか?
余りの現実感の無さに、そんな頭の悪い考えをしてしまった。
そう言って頭を下げる彼女は、自分は3年生で、生徒会に所属していると言った。
なんでも、この学校の生徒会役員を決める方法はかなり特殊で、生徒会会長、副会長は他の学校と同じように選挙式で決めるが、その他の役員⋯⋯庶務や書記といった役職に付く生徒は、その時の生徒会役員が勧誘するといった形のものを採用しているらしい。
彼女は言い終わると、最後に「またね」と言って立ち去って行った。
『怠惰な勤勉』である私は当然、教師陣への内申点稼ぎも忘れない。
特に、生徒会はその作業量の少なさの割に得られる利益が大きい。
これは中学の時に生徒会へと所属して得た知見だ。
体験だけでも良いと言われた現状だ。
まぁ、体験だけでもしてみようと思う。
そうして、私は生徒会に所属する運びとなった。
そう言って、項垂れるように机へ突っ伏したのは、伯瀬先輩と同じく3年生の御剣 與那先輩だ。
その机の上には、山のように重なった書類の束が今にも崩れそうになっている。
書類の山自体には生徒会室に入った時点で気づいていたけど、これ以上無視する事は私に無理だ。
好奇心に負けた私は御剣先輩の元へそぉっと近づいて声をかける。
すると、御剣先輩は力無く顔を上げた。
私がそう言うと、御剣先輩はポツポツと語り出す。
しまった⋯⋯余りに鬼気迫る表情だったので、敬語が崩れてしまった。
そう思う私とは裏腹に、御剣先輩は気にした様子もなく机へと突っ伏す。
御剣先輩は壁に掛けてある時計を見て時間を確認し、再びため息を吐く。
確かに、この量では今日中に終わらせることすら難しいだろう。
今日、生徒会室で作業をしている生徒は私と御剣先輩の2人。
他のメンバーは珍しく、別の場所で活動をしている。
⋯⋯仕方がない、か。
私は御剣先輩の横の席に腰を下ろし、書類の山から1枚の会計記録を取る。
急な出来事に、御剣先輩は懐疑的な目で私を見るが、私はそちらを見る事もせず目の前の書類を読む。
先輩の、若竹色の瞳が揺れる。
人柄の良い先輩のことだ、申し訳ないとでも思っているのだろう。
利用できるのならば、何でも利用すれば良いのに⋯⋯とも思うが、そういう考えが出来ないのがこの人だ。
御剣先輩の瞳を無視し、書類を1枚1枚処理していくうちに、諦めたのか、先輩はまた1つ息を吐いてから本人も書類に集中し始めた。
御剣先輩の、消え入りそうなそんな声を聞くと共に時計を確認すると、既に短針は九時を回っていた。
スマホを見ると、他の生徒会役員全員から一度も生徒会室に寄ること無く帰宅するという旨の連絡が入っている。
学校の外に出ると、既に辺りは真っ暗で。
部活動生たちも全員帰ってしまっているようで、非日常な静けさに包まれている。
今日は、柄でもないことをして疲れてしまった。
早く家に帰って寝るとしよう。
















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!