第37話

あの夏が飽和する
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2022/02/24 00:07 更新
ステイサムside

夜に再び設けられた自由時間で、今日もまたクロノアは上に登るだろうと思っていた。

が、自由にされると3人は珍しく同じ場所に留まっていた。


し「クロノアさん、大丈夫ですか?」

ク「…ぅん」

ぺ「大丈夫じゃない人ですよ。それは」

リ「どうかしたのか?」

8番が6番に目線で何かを伝え、6番が9番の耳を塞ぐ。

その間も目を合わせて、安心させるかのように。

ぺ「あー、すいません9番が寒がりっていうか、たまにあるんですけど甘えた期というか、離れたがらない時で…」

リ「…そうか、?」

スティーブ「寒いならあの灯りのところに行ったらどう?少しは暖まるんじゃない?」

ぺ「あぁ、確かにそうかもですね」

再び6番に目線だけで何かを伝えると、6番が塞いでいた手を離す。

ぺ「クロノアさん、あの灯りの前行きましょ!」

ク「うん」

そう言って頷いたっきり黙ってしまった。

8番で見えなかったが9番の手はしっかりと6番の服の袖を握っていて、8番が腕を出すとそこにきゅっと抱きついた。

…可愛い。

いつもの大人びた雰囲気とは違い不安定な子供っぽい雰囲気を纏っている。

灯りの前に着き、ぺたりと座る。

座ってもなお、手を離すことはなくさらに6番が8番と同じように腕を絡めくっついた。

し「クロノアさん、夏っぽい歌とかありますか?」

ぺ「少しは暖かくなりますかね」

ク「…どう、だろ、夏っぽい歌…」

あどけなくい、いつもよりゆっくりな喋り方。


ク「…あの夏が飽和するとか…?」

し「クロノアさん、聴きたいです」

いつもより静かな6番と8番。


ク「昨日人を殺したんだ
君はそう言っていた
梅雨時ずぶ濡れのまんま
部屋の前で泣いていた
夏が始まったばかりというのに
君は酷く震えていた
そんな話で始まるあの夏の日の記憶だ」


衝撃の開始にリアム看守とスティーブと揃って不自然なまでにかたまってしまった。

ゆっくりと語るように歌うクロノアに引き込まれていった。


ク「殺したのは隣の席の
いつも虐めてくるアイツ
もう嫌になって肩を突き飛ばして
打ち所が悪かったんだ」

6番と8番も少し驚いた顔をしていたが、視線を時折9番に向けて、ゆったりと聴いていた。

ボンヤリと灯りを見つめながら、自分がしたと言うように歌う。

ク「もうここにはいられないと思うし
どっか遠い所で死んでくるよ
そんな君に僕は言った
それじゃ僕も連れてって」

君と僕で少しだけ声のトーンが変わる。

その手はギュッと左右の2人の腕を掴んでいて、いつものように手を動かすことなどはない。

ク「財布を持ってナイフを持って
携帯ゲームもカバンに詰めて
要らないものは全部壊していこう
あの写真もあの日記も
今となっちゃもう要らないさ
人殺しとダメ人間の君と僕の旅だ」


ユラユラと灯りを反射するクロノアの瞳が揺れている。

何かを思い出すように歌う。

旅だと笑う、きっといつもなら力が入っているのだろう、今はふわりと浮かんでいる。


ク「そして僕らは逃げ出した
この狭い狭いこの世界から
家族もクラスのやつらも
何もかも全部捨てて君と2人で」

きっと、その考えは最善だったのだろう。

2人にとっては。

少し声に力が篭もる。


ク「遠い遠い誰もいない場所で
2人で死のうよ
もうこの世界に価値などないさ
人殺しなんてそこら中沸いてるじゃんか
君は何も悪くないよ
君は何も悪くないよ」


クロノアの目は灯りの向こうを見ていて。

勢いがついてから、ふっと勢いが消える。

言い聞かせるように歌う。


ク「結局僕ら誰にも愛されたことなど
なかったんだ
そんな嫌な共通点で僕らは簡単に
信じあってきた
君の手を握った時微かな震えも既に
無くなっていて
誰にも縛られないで2人線路の上を歩いた」


コテリ、と頭を8番の肩に預ける。

丁寧に言葉を紡ぐ。


ク「金を盗んで2人で逃げて
どこにも行ける気がしたんだ
今更怖いものは僕らには無かったんだ
額の汗も落ちた眼鏡も今となっちゃ
どうでもいいさ
溢れ者の小さな逃避行の旅だ」


薄らと浮かべられた笑みは何処か楽しそうで。


ク「いつか夢見た優しくて誰にも好かれる
主人公なら
汚くなった僕達も見捨てずにちゃんと救ってくれるのかな
そんな夢なら捨てたよ
だって現実を見ろよ幸せの4文字なんて無かった
今までの人生で思い知ったじゃないか
自分は何も悪くねぇと誰もがきっと思ってる」


ストンっと諦めきったようなトーンになる。

驚く程に感情の抜けた瞳。

ふっと笑う。


ク「宛もなく彷徨う蝉の群れに
水もなくなり揺れ出す視界に
迫り来る鬼たちの怒号に
馬鹿みたいにはしゃぎあいふと君は
ナイフをとった
君が今まで傍に居たからいたからここまで
来れたんだだからもういいよもういいよ
死ぬのは私一人でいいよ」


楽しそうにゆったり笑いながら、歌う。

そのまま緩く笑みを浮かべながら、もういいよ、と言い聞かせるように歌う。


ク「そして君は首を切ったまるで
何かの映画のワンシーンだ
白昼夢を見ている気がした
気付けば僕は捕まって
君が何処にも見つからなくって
君だけが何処にもいなくって」


再び感情のみえなくなった瞳。

不安だ、と、訴えるような泣きそうな表情。


ク「そして時は過ぎていった
ただ暑い暑い日が過ぎてった
家族もクラスのやつらもいるのに何故か
君だけはどこにも居ない
あの夏の日を思い出す
僕は今も今でも歌ってる
君をずっと探しているんだ
君に言いたいことがあるんだ」


思い出すように宙を眺める。

ゆっくりと上げられた目線は真っ直ぐで。

何処か諭すような雰囲気をもつ。


ク「9月の終わりにクシャミして
6月の匂いを繰り返す
君の笑顔は君の無邪気さは頭の中を
飽和している
誰も何も悪くないよ
君は何も悪くは無いから
もういいよ投げ出してしまおう
そう言って欲しかったのだろう
なぁ」

泣きそうな声で。

言い聞かせて、諭し、欲しい言葉を与える。

ふわりと笑って、なぁと声をかける。

暖かいと思った。

ク「…?」

動かない俺たちを見て疑問に思ったのか無言で首を傾げる。


ステイサム「…確かに夏だな?」

スティーブ「今は冬だけどね」

9番はこちらを見上げて、不思議そうな顔をした。

どこか幼く不安定な9番の頭をそっと6番が撫でた。




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