前の話
一覧へ
次の話

第8話

7話『好き』
1,762
2026/02/19 08:39 更新





 風呂から上がって  、鏡を見る  。
 湯気で曇った向こうにいる自分の顔は 、やけに
ぼんやりしてた 。


 俺は  、タオルで髪を乱暴に拭いて  、ドアを開ける  。

 リビングの灯りがついている 。

 胸が 、嫌な音を立てた。

 ソファにらんがいた 。
 スマホも触らず 、背もたれに沈んで 、天井を見てる。


いるま
    起きてたんだ    

らん
    うん    


 短い返事  。よそよそしい声  

 胸痛む 。
 でも俺は、逃げなかった 。

 近づく 。
 一歩 、また一歩


 らんが顔を上げる 。
 視線が合って 、すぐ逸らされる 。


らん
    なに  。  

いるま
    ……  別に    


    らんの目の前に立つ  。
らんの肩が強ばったのがわかる 。


いるま
    ……  俺の事ほんとに好きならさ    

いるま
    避けんなよ    


    そう言って  、ソファに座っているらんに馬乗りの
ように跨る 。
    らんが逃げられないよう  、全体重をかける  。


いるま
    ……  こーやって近づいても  、  
何も言わねぇし 。
いるま
    お前ってさ本当に俺のこと好き  ?    


 らんの目が  、揺れた  。
しばらく 、沈黙が流れる 。

 次の瞬間 。


らん
    ……  楽しい  ?    


    その一言で沈黙が破られた  。


いるま
    何が    

らん
    俺が    


 らんが  、俺を突き飛ばす  。
バランスを崩した俺は 、らんの膝の上から
転げ落ちていく 。


らん
    俺がいるまのこと好きって  、分かってて    

    床に座り込んで唖然としてる俺の胸ぐらを掴む  。

らん
    こうやって近づくの    
らん
    ……  楽しい  ?    


    声がかすれ  、苦痛に顔を歪めるらん  。


らん
    優しくしたり  、距離詰めたり    
らん
    期待させて  。  
らん
    どうせ遊んでるだけでしょ  ?    


    らんに胸ぐらを掴んでいた手をパッと離され  、
俺は数歩後ろに後ずさる 。


らん
    俺が勝手に好きなだけで    
らん
    いるまは俺のこと弄んで    


らん
    ……  もう やめてよ !    


 その声で  、頭が真っ白になる  。


 …… 違う 、違うのに 。
 言葉が上手く出てこない 。

 タオルを握る手が 、じっとり汗ばむのが分かる 。

 俺は 俯いた 。
 逃げたいのに 、逃げたくない 。


いるま
    ……  俺さ    
いるま
    そんな器用じゃねぇんだよ    

    振り絞って出した俺の声は  、酷く小さかった  。

いるま
    距離のとり方も  、優しくする方法も    
いるま
    全部下手で    
いるま
    現に  、らんを怒らせちまった    


    らんは  、俯いているが  、
明らかに動揺しているのがわかる 。

いるま
    でも    
いるま
    らんが離れんの嫌だった    
いるま
    好きな人がいるって聞いた時も    
全部 。


    らんがゆっくり顔を上げる  。


いるま
    ……  好きだ    


いるま
    俺  、らんの事が好き    


 言った瞬間  、言葉が一気に現実味を帯びて  、
怖くなった 。

 壊れる気がして 。

 らんの瞳が 、揺れる 。
 信じたいのに 、信じきれないようなそんな目で 。


らん
    ……  ほんとに  ?    


    らんは掠れた声で  、眉毛の端を下げながら  、
俺にそう聞く 。


いるま
    …  ほんと  。  
いるま
    だから  、もう離れんな    


 俺がそう言った瞬間  、らんの表情が 崩れる  。

 泣くのを堪えるみたいに唇を噛んで 、
 それでも 、逃げなかった 。










プリ小説オーディオドラマ