風呂から上がって 、鏡を見る 。
湯気で曇った向こうにいる自分の顔は 、やけに
ぼんやりしてた 。
俺は 、タオルで髪を乱暴に拭いて 、ドアを開ける 。
リビングの灯りがついている 。
胸が 、嫌な音を立てた。
ソファにらんがいた 。
スマホも触らず 、背もたれに沈んで 、天井を見てる。
短い返事 。よそよそしい声
胸痛む 。
でも俺は、逃げなかった 。
近づく 。
一歩 、また一歩
らんが顔を上げる 。
視線が合って 、すぐ逸らされる 。
らんの目の前に立つ 。
らんの肩が強ばったのがわかる 。
そう言って 、ソファに座っているらんに馬乗りの
ように跨る 。
らんが逃げられないよう 、全体重をかける 。
らんの目が 、揺れた 。
しばらく 、沈黙が流れる 。
次の瞬間 。
その一言で沈黙が破られた 。
らんが 、俺を突き飛ばす 。
バランスを崩した俺は 、らんの膝の上から
転げ落ちていく 。
床に座り込んで唖然としてる俺の胸ぐらを掴む 。
声がかすれ 、苦痛に顔を歪めるらん 。
らんに胸ぐらを掴んでいた手をパッと離され 、
俺は数歩後ろに後ずさる 。
その声で 、頭が真っ白になる 。
…… 違う 、違うのに 。
言葉が上手く出てこない 。
タオルを握る手が 、じっとり汗ばむのが分かる 。
俺は 俯いた 。
逃げたいのに 、逃げたくない 。
振り絞って出した俺の声は 、酷く小さかった 。
らんは 、俯いているが 、
明らかに動揺しているのがわかる 。
らんがゆっくり顔を上げる 。
言った瞬間 、言葉が一気に現実味を帯びて 、
怖くなった 。
壊れる気がして 。
らんの瞳が 、揺れる 。
信じたいのに 、信じきれないようなそんな目で 。
らんは掠れた声で 、眉毛の端を下げながら 、
俺にそう聞く 。
俺がそう言った瞬間 、らんの表情が 崩れる 。
泣くのを堪えるみたいに唇を噛んで 、
それでも 、逃げなかった 。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!