第7話

6話『自覚』
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2026/02/19 08:17 更新





 朝  、玄関にらんの靴がなかった  。

 起こしに来ないのはもう慣れた 。
 一緒に行かないのも 、慣れたはずだった 。

 でも 。


いるま
    ……  弁当    


    俺の分だけ置いてある  。
それと 、らんの手書きメモ 。


らん
  『先に出るね』  


    それだけ  。


いるま
    クソらん    

   誰もいない部屋に  、俺の声だけ響いた  。





















 学校に着いても  、らんは見当たらなかった  。
 いつもなら校門か 、俺の教室の前にいるのに 。

いるま
    ……    

 胸の奥が  、じわっと重くなる  。



 昼休み 。

 屋上は 、今日も空いてた 。
 フェンスにもたれて空を見る 。
 さんさんと照る 太陽が痛いくらい眩しい 。


いるま
    ……  来ねぇし    


    そう呟いてから  、小さく舌打ちをする  。
   待ち伏せしてる自分がキモイ  。

そう自覚しているのに 、どうしてもらんが来るのでは
ないか という考えが邪魔して 、屋上から出られない。


    さっき購買で買ったいちごオレを口に含む  。

いるま
    ……  あっま    
いるま
    あいつ  、よくこんなもん毎回飲んでんな    

  
いるま
    ……    


   なんで俺は飲みもんまでアイツに合わせてんだ  ?
   そんな疑問が  、ふいに頭に浮かぶ  。


いるま
    …  本格的にキメェな俺    























 放課後  、やっと見かけた  。

 廊下の先 。
 女子に囲まれてる …… わけじゃない 。

 らん一人 。

 誰とも話してない 。
 俺を見て 、らんは一瞬だけ目を見開いた 。
 それから 、軽く会釈して 、通り過ぎようとする 。


いるま
    ……  らん    


    名前が出ると同時に  、らんの腕を掴んだ  。
   らんは止まったが  、振り返らない  。


らん
    なに  ?    

いるま
    …  最近  、俺のこと避けてるだろ    

らん
    避けてないよ    

いるま
    嘘つけ    


   俺がそういうと  、らんは小さく息を吐いて
振り返った 。


らん
    ちゃんと  、距離とってるだけ  。  

いるま
    …  意味わかんねぇ    

らん
    嘘だ  。分かってるでしょ    


   そういうらんの顔は  、笑っていなかった  。
むしろ 、どこか辛そうな表情をしていた 。


らん
    ……  俺さ    


   らんの声が少し低くなる  。

らん
    好きな人がいるって言ったでしょ    
らん
    聞いてたよね  ?  あの時  。  

   心臓が  、嫌な跳ね方をした  。

いるま
    ……  あぁ    

らん
    だから    
らん
    いるまにはこれ以上近づかない    

いるま
    ……  は  ?    


    理解が追いつかない  。


らん
    前みたいに触らないし  、構わない  。  
兄として必要なことだけする 。
らん
    いるまもそうなることを    
望んでたでしょ ?

いるま
    …  なんでだよ    


    聞いた瞬間  、喉が詰まった  。


らん
    好きだから  。  

   即答だった  。

らん
    好きな人に重いって言われて    

らん
    キスして  、逃げて    

らん
    それでも近くにいたら  、
多分 、もっと傷つけちゃう


    だから離れる  。
 そういう声だった 。


いるま
    ……  お前の好きな人って俺 ?    


 声が  、思ったより低く出た  。
 らんが 、ぴたりと止まる 。

 一瞬 、らんの呼吸が詰まったのが分かる 。


いるま
    好きな人に重いって言われて    
   らんの言った言葉をもう一度なぞるように反唱する
いるま
    キスして  、逃げて    
いるま
    それってさ    

   らんに一歩近づく  。

いるま
    俺じゃねぇの ?    


 沈黙が流れた  。

 風の音だけが 、やけに大きい 。

 らんは 、下を向いていた顔をゆっくり上げた 。
 困ったみたいな顔 。

 でも 、否定はしない 。


らん
    ……    

いるま
    否定しねぇのかよ    


いるま
    ……  違うって言えよ    


   ほとんど命令のような形で乱暴にそう言う  。
    らんは目を伏せた  。


らん
    ……   言えないよ    


 それで全部  、理解した  。
 胸の奥が 、ずんと落ちる 。


いるま
    ……  んで    

    声が震えているのがわかる  。

いるま
    なんで俺のために離れるんだよ    

らん
    好きだからって言ったでしょ    

   静かで  、逃げ場を与えないような声だった  。


らん
    近くにいたら期待する    
らん
    触れられたら嬉しくなる    
らん
    それでまた度が過ぎた行動して    
次こそ嫌われちゃったら

   らんは少しだけ笑った  。

らん
    耐えられないよ    


    その笑いが  、一番きつかった  。

 俺は 、何も言えなかった 。

 重いって言ったのも 、逃げたのも俺 。


いるま
    ……  そ  、っか    


    なのに。

 傷つく覚悟をしてるのは全部 、らんの方だった 。
 気づいた時には 、もう遅い 。


らん
    ……  じゃあ俺先に帰るね    
らん
    気をつけてね    


    失う前提で  、好きでいられる人間なんて  、
 そんなに強くない 。


 …… 少なくとも 、俺は 。






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