朝 、玄関にらんの靴がなかった 。
起こしに来ないのはもう慣れた 。
一緒に行かないのも 、慣れたはずだった 。
でも 。
俺の分だけ置いてある 。
それと 、らんの手書きメモ 。
それだけ 。
誰もいない部屋に 、俺の声だけ響いた 。
学校に着いても 、らんは見当たらなかった 。
いつもなら校門か 、俺の教室の前にいるのに 。
胸の奥が 、じわっと重くなる 。
昼休み 。
屋上は 、今日も空いてた 。
フェンスにもたれて空を見る 。
さんさんと照る 太陽が痛いくらい眩しい 。
そう呟いてから 、小さく舌打ちをする 。
待ち伏せしてる自分がキモイ 。
そう自覚しているのに 、どうしてもらんが来るのでは
ないか という考えが邪魔して 、屋上から出られない。
さっき購買で買ったいちごオレを口に含む 。
なんで俺は飲みもんまでアイツに合わせてんだ ?
そんな疑問が 、ふいに頭に浮かぶ 。
放課後 、やっと見かけた 。
廊下の先 。
女子に囲まれてる …… わけじゃない 。
らん一人 。
誰とも話してない 。
俺を見て 、らんは一瞬だけ目を見開いた 。
それから 、軽く会釈して 、通り過ぎようとする 。
名前が出ると同時に 、らんの腕を掴んだ 。
らんは止まったが 、振り返らない 。
俺がそういうと 、らんは小さく息を吐いて
振り返った 。
そういうらんの顔は 、笑っていなかった 。
むしろ 、どこか辛そうな表情をしていた 。
らんの声が少し低くなる 。
心臓が 、嫌な跳ね方をした 。
理解が追いつかない 。
聞いた瞬間 、喉が詰まった 。
即答だった 。
だから離れる 。
そういう声だった 。
声が 、思ったより低く出た 。
らんが 、ぴたりと止まる 。
一瞬 、らんの呼吸が詰まったのが分かる 。
らんの言った言葉をもう一度なぞるように反唱する
らんに一歩近づく 。
沈黙が流れた 。
風の音だけが 、やけに大きい 。
らんは 、下を向いていた顔をゆっくり上げた 。
困ったみたいな顔 。
でも 、否定はしない 。
ほとんど命令のような形で乱暴にそう言う 。
らんは目を伏せた 。
それで全部 、理解した 。
胸の奥が 、ずんと落ちる 。
声が震えているのがわかる 。
静かで 、逃げ場を与えないような声だった 。
らんは少しだけ笑った 。
その笑いが 、一番きつかった 。
俺は 、何も言えなかった 。
重いって言ったのも 、逃げたのも俺 。
なのに。
傷つく覚悟をしてるのは全部 、らんの方だった 。
気づいた時には 、もう遅い 。
失う前提で 、好きでいられる人間なんて 、
そんなに強くない 。
…… 少なくとも 、俺は 。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!