第2話

気遣いの裏側/剣持
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2023/06/22 05:52 更新
キーンコーンカーンコーン
放課後、もうすぐ校門が閉まることを教えるチャイムが鳴る。 空は朱色を通り越して薄暗くなり始めており、生徒も部活などで最後まで残ってる者しかいない為、話し声もまばらだ。
あなた
はぁ……
私はよくある、所謂"家庭の事情"のせいで、帰宅するのが嫌で人の居ない教室で一人、大きな溜息を吐いた。 これ以上ここに居続けるわけにも行かないのは解っているが、重たい腰は持ち上がらない。
剣持刀也
ーーーおや?
こんな時間まで何してるんですか?
あなた
っ! びっくりしたぁ、何だ、剣持君か
突然教室のドアの方から声をかけられた私は大きく肩を跳ねさせた。そこには同じクラスの剣持刀也君が怪訝そうな顔でこちらを見ている。彼の肩には竹刀ケースが背負われており、首から下げているフェイスタオルと濡れて束になっている髪の毛から部活終わりだとわかる。
あなた
なんていうか、帰りたくなくて…ね、
剣持刀也
ふぅん…でも、このままだと暗くなるし、先生が見回りに来たらうるさいと思いますよ?
私の言葉に興味なさげにそう言う。彼は真面目な人だから、こうしていつまでも人が残ってるのが気になるのだろう。
私はもう一度大きくため息を吐き、仕方がないとゆっくり立ち上がる。
剣持刀也
バス…は、もう間に合わないか。
自転車は?まさか歩きなわけないでしょう?
あなた
……朝バスで来たから、歩きだよ。
時計を確認する彼は、私の言葉を聞いてギョッとする。時刻は既に19時にもなる時間で、学校から駅前まで歩けば30分以上はかかる。 私としては、帰宅する時間が延びれば延びるほど良いので構わないのだが、彼は暗くなる中女子が歩きで下校することが気になるようだ。
剣持刀也
それは…危なくないですか?先日も露出狂が出たから気をつけろって連絡きてたし…。
剣持刀也
うーん……本当は良くないんですけど、いやほんと交通法違反なのでいけない事なんですけど、緊急事態ということで僕の後ろに乗って行きますか?
あなた
……え?
真面目な彼からのまさかの2人乗りの提案に驚いた。普段は注意する側の彼が珍しい。 
ここで断った所で、こうも女子生徒の1人歩きを気にする彼はあの手この手で結局一緒に帰るように私を言いくるめるだろう。
私が致し方なしに頷けば、彼は満足そうに口角を上げ「それじゃあ、行きますよ!」と歩き出した。
男の子と自転車の2人乗りなんて、恋人もいない私はする機会がなく少々緊張してしまう。 そんな私を他所に彼はテキパキと前カゴに2人分の鞄を詰め込むと竹刀ケースをこちらへ手渡してくる。
剣持刀也
僕が持ってると危ないので、あなたの名字さんが持っててください。ぜっっったい落とさないでよ?
私は言われた通りにそれを肩へ背負う。意外と長いソレを自転車の後輪にぶつけないように工夫が必要だな、と何度か持ち直して調整してると、彼に捕まるように促された。
剣持刀也
危ないのでちゃんと捕まってて下さいよ。
あなた
ん、わかった…
手を回すのは流石に気恥ずかしく、彼の制服を軽く掴んだ。
自転車は薄暗くなり始めた道を走り出す。
私は流れる景色を見ながら、彼に声をかけられた時から気になっていたことを問いかけた。
あなた
んね、何でこんなに気にしてくれたの?
別に一緒に帰る必要、無かったでしょ?露出狂も捕まったって聞いてるよ?
剣持刀也
ぅえっ…知ってたの…。
んーー、そうですねぇ…
彼が帰る理由とした事への続きを知ってることを言えば、バツが悪そうな声をあげる。動揺したのか少し蛇行になったのを直しながら彼は続ける。
剣持刀也
何となく、何となくですよ?
あのまま1人で帰してたら、あなたの名字さんが何処かに消えてしまうような、そんな気がしたんです。
「ああもう!恥ずかしいなぁ!」と誤魔化すように大きな声を出した彼の耳は、後ろから見ても分かるほど赤くなっていた。
剣持刀也
……僕はあなたの名字さんの事情は何も知りません。
何が嫌で帰りたくないのかも、なにも。
それでも、同じクラスの生徒ですから。
剣持刀也
いなくなられたら、寂しいんです。
段々と小さな声を話す彼は、普段同じ教室で見てる友人と戯れる彼よりもずっと可愛く見える。
赤信号に差し掛かり、キッと音を立てて1度止まる。ちらりと振り返った彼は、どこまで少し迷うように言葉を紡ぐ。
剣持刀也
僕でよければ、愚痴でも何でも聞きますよ?
吐き出すだけでも楽になることってあるじゃないですか
どこまでも優しい人だと思った。彼のそんな為人が、普段から彼が人気者である由縁なのだろう。
私は不思議と彼に促されるまま、口を開いていた。
あなた
よくある話だよ。母親の再婚相手が何となく気に食わなくて、女の顔してる母親も気に食わなくて、そんな人たちがいる家に帰りたくないってだけ。
剣持刀也
なるほど…。つまり居場所がない感じか。
あなた
…そうだねぇ。うん、多分そんな感じ。
信号が青になる。彼は前を見てペダルに乗る足へ力を込めた。
剣持刀也
僕にはあなたの名字さんの気持ちを100%理解することはできません。
けど、居場所がないことが寂しいことはわかります。
僕らはまだまだ子供ですからね!親の都合なんか知ったこっちゃないんですよ。
剣持刀也
ありきたりな言葉になりますし、よくある台詞でしかないのが申し訳ないのですが…
剣持刀也
僕がいて、あなたの名字さんがいる教室は居場所になりませんか?
もしくは、今乗っている僕の後ろは、あなたの名字さんの居場所になりませんか?
彼の、告白とも取れる様な言葉に思わず頬が朱色に染まる。彼は今、自分が何を口走っているのか自覚があるのだろうか?
あなた
な、なる、かも…?けど、剣持くん、今の、告白みたい、だよ
恥ずかしさから彼の制服を掴む手に力がこもってしまう。
剣持刀也
んんっ…………そうかも、しれませんね
彼の呟いた言葉は、自転車の走る音と共に空気にとけた。

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