キーンコーンカーンコーン
放課後、もうすぐ校門が閉まることを教えるチャイムが鳴る。 空は朱色を通り越して薄暗くなり始めており、生徒も部活などで最後まで残ってる者しかいない為、話し声もまばらだ。
私はよくある、所謂"家庭の事情"のせいで、帰宅するのが嫌で人の居ない教室で一人、大きな溜息を吐いた。 これ以上ここに居続けるわけにも行かないのは解っているが、重たい腰は持ち上がらない。
突然教室のドアの方から声をかけられた私は大きく肩を跳ねさせた。そこには同じクラスの剣持刀也君が怪訝そうな顔でこちらを見ている。彼の肩には竹刀ケースが背負われており、首から下げているフェイスタオルと濡れて束になっている髪の毛から部活終わりだとわかる。
私の言葉に興味なさげにそう言う。彼は真面目な人だから、こうしていつまでも人が残ってるのが気になるのだろう。
私はもう一度大きくため息を吐き、仕方がないとゆっくり立ち上がる。
時計を確認する彼は、私の言葉を聞いてギョッとする。時刻は既に19時にもなる時間で、学校から駅前まで歩けば30分以上はかかる。 私としては、帰宅する時間が延びれば延びるほど良いので構わないのだが、彼は暗くなる中女子が歩きで下校することが気になるようだ。
真面目な彼からのまさかの2人乗りの提案に驚いた。普段は注意する側の彼が珍しい。
ここで断った所で、こうも女子生徒の1人歩きを気にする彼はあの手この手で結局一緒に帰るように私を言いくるめるだろう。
私が致し方なしに頷けば、彼は満足そうに口角を上げ「それじゃあ、行きますよ!」と歩き出した。
男の子と自転車の2人乗りなんて、恋人もいない私はする機会がなく少々緊張してしまう。 そんな私を他所に彼はテキパキと前カゴに2人分の鞄を詰め込むと竹刀ケースをこちらへ手渡してくる。
私は言われた通りにそれを肩へ背負う。意外と長いソレを自転車の後輪にぶつけないように工夫が必要だな、と何度か持ち直して調整してると、彼に捕まるように促された。
手を回すのは流石に気恥ずかしく、彼の制服を軽く掴んだ。
自転車は薄暗くなり始めた道を走り出す。
私は流れる景色を見ながら、彼に声をかけられた時から気になっていたことを問いかけた。
彼が帰る理由とした事への続きを知ってることを言えば、バツが悪そうな声をあげる。動揺したのか少し蛇行になったのを直しながら彼は続ける。
「ああもう!恥ずかしいなぁ!」と誤魔化すように大きな声を出した彼の耳は、後ろから見ても分かるほど赤くなっていた。
段々と小さな声を話す彼は、普段同じ教室で見てる友人と戯れる彼よりもずっと可愛く見える。
赤信号に差し掛かり、キッと音を立てて1度止まる。ちらりと振り返った彼は、どこまで少し迷うように言葉を紡ぐ。
どこまでも優しい人だと思った。彼のそんな為人が、普段から彼が人気者である由縁なのだろう。
私は不思議と彼に促されるまま、口を開いていた。
信号が青になる。彼は前を見てペダルに乗る足へ力を込めた。
彼の、告白とも取れる様な言葉に思わず頬が朱色に染まる。彼は今、自分が何を口走っているのか自覚があるのだろうか?
恥ずかしさから彼の制服を掴む手に力がこもってしまう。
彼の呟いた言葉は、自転車の走る音と共に空気にとけた。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。