ある春の夜、璃音は勤務を終え、疲れた体を引きずりながらもまっすぐ帰宅した。
マンションのリビングには、ソファで眠り込む聖奈の姿。まだ衣装合わせの仕事帰りなのだろう。メイクの残り香とシャンプーの匂いが混ざる彼女の寝顔は、照明の下でひどく愛おしかった。
璃音はそっと彼女の髪を撫で、静かに囁く。
聖奈はまぶたをゆっくり開け、少し眠そうに微笑んだ。
璃音は小さく息を整え、ポケットから小さな箱を取り出した。手のひらで震えるその箱を見て、聖奈の目が大きく開く。
璃音は膝をつき、まっすぐに彼女を見上げる。
聖奈の頬に涙が浮かぶ。璃音は一呼吸置き、震える声で続けた。
小さな箱を開けると、シンプルで細身のリングが月明かりに光った。
聖奈は口元を手で覆い、涙をこらえきれず首を振った。
璃音は即座に首を振った。
涙を溢れさせながら、聖奈は小さく頷いた。
璃音は指輪を彼女の左手薬指にはめ、聖奈を強く抱きしめた。
二人は涙で濡れた唇を重ねる。疲労も不安も未来の忙しさも、その瞬間だけはすべて溶けて消えていった。
外では春の夜風が街を吹き抜けていたが、部屋の中は二人の温もりで満ちていた。
その夜、璃音と聖奈は改めて誓った。
――どんな世界にいようとも、互いが互いの唯一の帰る場所であることを。














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!