この村には 年に一度 誰かが 鬼の花嫁となり
この世を去らなければ ならない
という掟がある 。
そして 我が 家系は
代々 " 花嫁 " を務めてきた 。
花嫁と書き、 生贄と読むこともある 。
先祖代々 女性しか生まれてこなかった
この家に
我が 生まれてしまった 。
男が 花嫁になるなど
聞いたことがない 。
どうせ 鬼の食料に なるのだろうと
貧乏な暮らしを あたえられた 。
だが 苦しくは無かった 。
此方に 残された 父様 と
二人で 暮らす 。
農民の 少し下程の 暮らしだったけれど、
幸せだった 。
だが、 不幸というものは
当然 襲ってくる 。
……今朝 。
父様が 泣いて 我を 抱き締めてきた時、
全て理解した 。
ついに時が 来てしまったのだと 。
男なのに 化粧なんて いるのかとは
思ったものの 口を出す権利は無いので
黙っておく 。
死装束 … 。
死ぬ前に これを着るのかよ …
死装束に
綿帽子も 被せられ
自分で着ているものの、 なんだか不気味である 。
この儀式では
花嫁を 綺麗に着飾って
足に重りをつけ
鬼の住む世界と 此方の世界の出入口と
言われている 湖に おとす。
本当に 鬼の花嫁になるものもいれば
鬼の夜食となる 者もいるそうで 。
我は 夜食確定なのだが、。
船で 湖の 真ん中に 漕いで行く 。
どん ッッ ゛
手枷足枷 目隠し と きたもんだ、
助かるわけが無い、
口も塞がれていて 息すら出来ない 。
人間として 見られてこなかった この18年間 。
それよりは、 死ぬことは辛くなかった 。
母様や 父様の 顔を思い浮かべながら
意識を失って行った 。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!