あなたの放浪者の名前 side .
朝日が僕を見る.
昨日噛み締めた温もり.
それは手に入れてすぐに奪われてしまった.
何故か何をする気力も起きない.
1人外で座り込む.
まだ早朝で,
人々は夢の中.
やけに静かすぎると感じるのは,
時間帯が原因なのか,
彼女が側にいないからなのか.
どちらにせよ,今日は普段より静かだった.
まだ…まだ取り戻せる.
取り戻せるはずなのに……
心の奥で,それを否定している.
僕なんかが…
結局大切な人は…
失ってしまった…
今,彼女は生き__
彼女を抱きしめた時,
僕は未来に希望を抱いてしまった.
期待してしまったんだ,この先の姿を.
陽の光,月の光を浴び,
軽口を叩いて一緒にご飯を作って,
長い時間本を読む君に僕が呆れて,
街にいた猫に興奮しながら君が近づいて,
優しい顔で眠ってしまう君の顔を見て,
君の好奇心に振り回され買い物をして,
時にはグランドバザールに行って,
そして僕らはもっと広い世界を巡る.
命あるもの,いつかは滅びる.
自由に飛び回る鳥も,
人も,そして神も.
生命が宿っている限り,死んでゆく.
命に囚われない僕ら.
彼女は中のプログラムが壊れない限り,
彼女は彼女なのだ.
不意にもう一人じゃないって,
大丈夫だと思ってしまったんだ.
……頼む………お願いだ…………
背中から聞き慣れた声が聞こえた.
……普段なら吐かない弱音.
普段の僕なら必ずクラクサナリデビに否定,文句,
そんな言葉を投げつけていただろう.
だけれど,僕にはそんな気力は無かった.
否,そんなことはもうどうでもよかった.
とにかく僕はあなたの下の名前に会いたかった.
ただそれだけでいい.
僕は静かに声を発する.
僕はクラクサナリデビの方へ顔を向けた.
彼女は僕の首が破損していることに気付いた.
ナイフで突き刺された場所だ.
言葉にしようとすればするほど,
現実を突きつけられ目の前が暗くなっていく.
何故僕はあのとき助けられなかったのだろう.
いっそのこと本気で殺しにかかっていれば………
でも…そんなことをしたら,
あなたの下の名前にショックを与えてしまっていただろう.
場面を思い出し,
現状を整理するにつれて心配が増し,
さらに 怒り が顔を出す.
僕は目の前に落ちていたナイフをじっと見る.
クラクサナリデビもつられる様にチラリと見たが,
それ以上見ようとしなかった.
僕は周りに散らばる彼女の瞳の破片を優しく拾う.
もうどうしようも無くて,
光の差し込まない瞳で殺意を込めて笑っていた.













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。