休日の昼下がり。散歩がてらに2人で歩いて高校の時からの友人、宮舘の店にゆっくり向かう。少し前の春だなと思わせるような暖かな気候から一変し今日は風が冷たくかなり寒い。体脂肪率が減った体は油断して薄着で出てきてしまったことを酷く後悔させる。寒さに耐え切れず、昼間だけど隣のふっかの手を握ってふっかの来ている上着のポケットに入れた。
特に手を繋いだことに何も言われなくて驚くけどそれ程機嫌がいい事に嬉しくなる。
そうこう喋っている内に店先に綺麗な花が飾られた落ち着いた雰囲気の店が見えてくる。店先には見知った男が箒で掃除をしていた。
まだ店まで10mはあるのにふっかの声で俺たちのことに気がついた瞬間、小型犬のように走って来る姿に笑みがこぼれる。俺が高三の時の後輩である向井康二は、将来の夢を叶える為に宮舘の店で修行という形で働いている。いずれは服屋とカフェを融合させた自分の店を持ちたいという。俺とふっかはそれに本気で応援している。
3人で歩いて店まで向かい、ステンドグラスの小さな窓が着いた扉を開けると、からんと可愛らしいベルの音が鳴る。中は相変わらずお洒落で落ち着いた雰囲気が漂って、厨房からはいい香りがしてくる。
厨房に戻る康二と舘さんを見届けて、翔太の後について店の奥まで進んでいく。大人数用に用意されたテーブルは相変わらず花が1輪1輪飾ってある。徐々にこれまた聞き慣れた声が聞こえてきて、あいつらの正体がわかった。
少し伸びた襟足をひとつに括った佐久間と、相変わらずの優しい微笑みを浮かべる阿部と元気に俺らを呼ぶラウールが席の奥に座っていた。
厨房に戻る3人もあとから来るだろうと踏んで、取り敢えず5人で席につく。各々喋ると会話が弾んでかなりうるさい。元々口数が多い奴らばかりだし、佐久間は声のボリュームが上がるしで、2人きりの静かな食事とは程遠い。まぁでも楽しいし、信頼出来る人ばかりでふっかも楽しそうなので全然許せる。濃厚で甘いココアを頂いて、みんなでポリポリバーニャカウダを齧っているとちりんとまた扉が開く音がした。
康二のバカでかい声と足音がこっちまで聞こえてくる。最後は目黒がお出ましのようだ。
康二に連れられて目黒が俺らの席にやってくる。
この店のほぼ常連全員が集まった事で楽しい食事会が始まる。舘さんのコース料理に舌鼓を打ちながら、俺らの仕事の話、ラウールの大学の話、目黒のモデル誌や芸能界の話をしていく。話し声が途切れることなんで全くなくて、こいつらとなら何時間でも何日でも一緒にいたら静かになる事はないんだろうなぁと思った。
最後のデザートが運ばれてきたところで仕事を終えた舘さんと翔太と康二が戻ってきて本当の全員集合。長いこと話していて、ここに来たのは12時30分位だったはずなのにいつの間にか16時になっていた。
阿部が言ってくれた額を払って、店を後にした。
突然2人になったことでさっき迄あんなに騒がしかったのに音が少なくて少し寂しく感じる。ふっかもそうだったのか、行きとおなじように俺の手を握ってきた。
行きつけのスーパーに向けて晩飯は軽くでいっかと話しながら歩く。昼よりも気温が下がり、冷たい風が強く頬をかすめていく。
手を強く握り返して少し早歩きすると笑って引っ張られてくれるふっかが愛おしかった。素敵な休日もあと残り1日。明日はふっかを独り占めしてやろうと心に決めた。





















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。