第15話

喪失した過去。⑵
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2018/02/02 13:15
あなた

何言ってるの。
私は誤解なんてしてない!

取り乱す私を、医者が抑えた。
警察官
いいや、誤解している。
君の彼氏、柊 翔は、君のストーカーだったんだ。
あなた

は?

警察官
七瀬 沙也加は、その事に気づき、あの日、柊と話をしようとしたらしい。柊が、君に危害を加える前に、何とか手を打とうとしたそうだ。
あなた

そんなこと、あるはずない!だって、翔君は私にあんなに優しかった!私のことをずっと想ってくれてた!それを、アイツが妬んで、奪おうとしただけでしょ!?

警察官
いや、本当だよ。現に、柊の部屋からは、君の写真が山のように出てきたしな。どうやら、隣に引っ越した時、窓から見た君に、惚れたらしい。引き出しから、君のことがびっしりと書かれた日記まで出てきた。
あなた

そんなの、嘘だ!

警察官
なら、実際に自分の目で見てみるといい。
警察官は、部下に持ってこさせた、写真と日記を私に見せた。日記の字は、確かに、翔君のものだった。
あなた

そんな…

私は絶句した。

だから、部屋を今まで見せなかったの…?

だから、大学まで、私に合わせようとしてきたの…?

思い当たる過去が溢れかえってきて、私は、その過去に押し潰されそうになった。
警察官
七瀬は、柊がバッグに入れていた、隠し撮りした写真を偶然見つけて、柊のストーカー行為に気づいたらしい。そして、その写真を証拠に、あの日、柊に、君へのストーカー行為をやめるに話をしに行ったんだ。だが、柊はそれに応じなかった。挙句の果てに、七瀬を階段から突き落とそうとしたんだ。しかし、誤って、自分の方が落ちてしまった。…これが、真実だ。
あなた

そんなはず…
だって、沙也加は、ただ揉み合いになったとしか…。

警察官
そんなの、君のために決まってるだろう。
君に残酷な真実を伝えたくない一心でな。
あなた

そんなの、ただの自己満足じゃない!どうせ自分のやったことを認めたくなかったんでしょ!?

警察官
いい加減に気づけ!
警察官が、初めて怒鳴った。
私は一瞬ひるみ、すくんでしまった。
警察官
だったら、君は、柊の本性を聞いて、冷静に納得できたのか!?自暴自棄にならないと言えたのか!?言っとくがな、真実を隠すってことは、真実を伝えることよりも、苦しくて、辛いんだよ!思い十字架を背負って、一生生きていかなくちゃならないようなことなんだ!
…沙也加は、私のために…?
私の、ために、隠してた…?
苦しかった…?辛かった…?
私は何ひとつ、沙也加のことを、知らなかった…。
あなた

私は…
私は…

警察官
今度はお前が十字架を背負う番だ。
それと、これは、七瀬の家にあったものだ。
警察官が渡してきたものは、チョコレートだった。しかも、紫色の花の形をした、すみれのチョコレートだった。そして、ラッピングの中には、小さな手紙があった。

「あなたへ
あなたに会えて、本当に良かった!
これから、どんな事があっても、ずっと一緒に、乗り越えて、幸せになろうね!
沙也加より」

私の目からは、久しぶりに、涙が溢れ出ていた。

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