夕方16時頃、とある2LDKアパート。
天然パーマの黒髪を女物のシュシュのみで結び、PC眼鏡を掛けた萌え袖の中性的な美青年……冬夏藤空が同居の弟、冬夏桐波の部屋をノックしていた。
数秒後、部屋の主・桐波が姿を現す。
真っ直ぐな茶色の髪を七三分けにしている眼鏡の美少年だ。
地毛の髪色からして違っているのだが、正真正銘の兄弟で……同じ親から生まれている。
又キャラやファッションのせいなのかしょっちゅう逆に思われているが、藤空が21歳で大学3年の兄、桐波が16歳の高校1年の弟である。
思わず桐波が言ったように藤空はスマホゲー……特に音ゲーが好きだ。
というより音ゲーでありキャラゲーである物が好きである。
ゲーム内の日替わり課題も意欲的にやっており、それなりの難度でもフルコンボを取れたりする。
又イベント期間中はずっとそのゲームに入浸り、目玉報酬をちゃっかり受け取ったりもしている。
『全報酬取ろうと思ったり目玉報酬全てを狙ったりはしていないからガチではない』とは言うものの、藤空の勧めで同じ音ゲーを入れ、推しキャラなんかが居つつも完全エンジョイでイベントも気まぐれに走り、最高難度に触れない桐波のようなユーザーからすると『ガチ勢』にしか見えない。
特に耳が遠いせいで結構な音量でプレイする藤空である。音ゲーイベ期間終了手前にでもなれば朝から晩までどこに居ようとゲームの音楽がしているのだ。
『ガチ勢』に見えるに決まっている。
藤空は本当に驚いたという表情で言っている。
それに呆れながら桐波は返した。
不満そうな声を上げてみつつもいつもの事なので、藤空もツッコむのはそれ位で留めておく。
それを見ながら話は終わりとばかりに桐波が口を開いた。
桐波は高校1年生だが、同時にイラストレーターの仕事をしている。
彼がリビングルームでは無く、部屋に籠り出したら仕事開始の合図だった。
桐波の問いに藤空はそう切り出す。
藤空も大学生だが、同時に作家であった。
藤空の言葉に桐波は……
勿体ぶりつつ頷いた。
2人の間で良く出るいつものネタである。
この家では風呂と洗濯が藤空、料理から洗い物までを桐波、掃除は個々と役割分担している。
藤空に料理をやらせると軽くゆでる程度のレベルの物なら平気だが、レシピ通りに作っているのにレシピ外の物が出来る、味が無い物が出来るというような悲劇が起きるからである。
『料理が嫌いでは無い』と本人は言うが、1人でやらせると桐波の仕事が増えて仕方が無いのでそうなったのであった。
藤空は桐波にそう返し、邪魔にならないように『残りのお仕事頑張ってね~』と去って行った。
それを確認した桐波も仕事に戻る。
この物語の主人公はこの2人の兄弟。
変わり者ではありつつも仲良くやっている……残念イケメン達。
そんな2人を待つ明日はどんな色をしているのか?
……そっと覗いてみませんか?
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。