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第2話

Prologo 冬夏兄弟
18
2021/05/10 12:22
 夕方16時頃、とある2LDKアパート。
 天然パーマの黒髪を女物のシュシュのみで結び、PC眼鏡を掛けた萌え袖の中性的な美青年……冬夏藤空とうかふじぞらが同居の弟、冬夏桐波きりなみの部屋をノックしていた。
冬夏藤空
冬夏藤空
桐波、桐波~! ちょっと良いかな?
冬夏桐波
冬夏桐波
何、兄さん? そんなに大声を出さなくても聞こえてるって
 数秒後、部屋の主・桐波が姿を現す。
 真っ直ぐな茶色の髪を七三分けにしている眼鏡の美少年だ。
 地毛の髪色からして違っているのだが、正真正銘の兄弟で……同じ親から生まれている。
 又キャラやファッションのせいなのかしょっちゅう逆に思われているが、藤空が21歳で大学3年の兄、桐波が16歳の高校1年の弟である。
冬夏藤空
冬夏藤空
桐波耳良いよねー
冬夏桐波
冬夏桐波
兄さんが遠いだけだって
冬夏藤空
冬夏藤空
確かに自分の電話の声は大きいって良く言われてたっけ……自分はあの位じゃないと聴こえないんだけどなぁ。
それから実家のテレビの音量もいつの間にか変えられていたり……
冬夏桐波
冬夏桐波
ついでにスマホゲームの音量、正直煩いよ
 思わず桐波が言ったように藤空はスマホゲー……特に音ゲーが好きだ。
 というより音ゲーでありキャラゲーである物が好きである。
 ゲーム内の日替わり課題も意欲的にやっており、それなりの難度でもフルコンボを取れたりする。
 又イベント期間中はずっとそのゲームに入浸り、目玉報酬をちゃっかり受け取ったりもしている。
 『全報酬取ろうと思ったり目玉報酬全てを狙ったりはしていないからガチではない』とは言うものの、藤空の勧めで同じ音ゲーを入れ、推しキャラなんかが居つつも完全エンジョイでイベントも気まぐれに走り、最高難度に触れない桐波のようなユーザーからすると『ガチ勢』にしか見えない。
 特に耳が遠いせいで結構な音量でプレイする藤空である。音ゲーイベ期間終了手前にでもなれば朝から晩までどこに居ようとゲームの音楽がしているのだ。
 『ガチ勢』に見えるに決まっている。
冬夏藤空
冬夏藤空
え、そうなの!? 自分が主にやっているのは音ゲーだから……皆同じようなもんだと思ってた
 藤空は本当に驚いたという表情で言っている。
 それに呆れながら桐波は返した。
冬夏桐波
冬夏桐波
兄さんと同じ音量で皆がやっていたら耳が痛くなるって……
冬夏藤空
冬夏藤空
そっか、ごめんね?
冬夏桐波
冬夏桐波
まぁ俺は兄さんが耳遠いの知ってるから大丈夫だけど……人前では気を付けた方が良いよ
冬夏藤空
冬夏藤空
人前で音ゲーやってたら気持ち悪いと思われちゃうって。あんだけ手を動かすんだから……まぁ最悪音無しでも出来はするけど……
冬夏桐波
冬夏桐波
それは音ゲーと言えるのか……
冬夏藤空
冬夏藤空
うん、自分もそうツッコみたくなるから音出してやりたい。桐波が仕事中で気になるなら落とすけど
冬夏桐波
冬夏桐波
まぁ俺、集中したら大体聞き流してて……聴いてるようで聴いてないから別に平気
冬夏藤空
冬夏藤空
あ、そっか~。自分も読書に集中すると何も聞こえなくなるし、似たようなもんかー
冬夏桐波
冬夏桐波
いや、それとは一緒にしないで欲しい
冬夏藤空
冬夏藤空
えー……相変わらず冷たいなぁ桐波
 不満そうな声を上げてみつつもいつもの事なので、藤空もツッコむのはそれ位で留めておく。
 それを見ながら話は終わりとばかりに桐波が口を開いた。
冬夏桐波
冬夏桐波
ところで兄さん、何か用だったんじゃないの? 俺今仕事中だから要件は手短にね
 桐波は高校1年生だが、同時にイラストレーターの仕事をしている。
 彼がリビングルームでは無く、部屋に籠り出したら仕事開始の合図だった。
冬夏藤空
冬夏藤空
うん。あのね……自分の新作ライトノベルの話なんだけど
 桐波の問いに藤空はそう切り出す。
 藤空も大学生だが、同時に作家であった。
冬夏藤空
冬夏藤空
挿絵をやってくれるイラストレーターが急病で入院したって電話が掛かって来たんだよね。退院の見通しも立たないとか……
冬夏桐波
冬夏桐波
って事は代役が必要なのか。それを俺に頼みたいって?
冬夏藤空
冬夏藤空
うん。正式な仕事だから報酬は当然出るよ
 藤空の言葉に桐波は……
冬夏桐波
冬夏桐波
えーーー、わかった
 勿体ぶりつつ頷いた。
 2人の間で良く出るいつものネタである。
冬夏藤空
冬夏藤空
ホント? 有難う! 助かるよ
冬夏桐波
冬夏桐波
まぁ兄さんの仕事がそれで無くなったりしたら俺も困るから。で、それ納期はいつまで?
冬夏藤空
冬夏藤空
桐波が了承してくれたら担当さんが説明に来るって。桐波の予定に合わせるって言ってたけど……1週間以内に説明させてくれると助かるって
冬夏桐波
冬夏桐波
……とすると明日の学校帰りとかで良い?
冬夏藤空
冬夏藤空
うん! それじゃあ夜20時位に打ち合わせでお願いしてみるね。ええっとファミレスとかで良いよね?
冬夏桐波
冬夏桐波
うん、OK
冬夏藤空
冬夏藤空
じゃあ後は自分が色々調整する。あ、風呂ももう落としちゃうね
冬夏桐波
冬夏桐波
じゃあ頼んだ。俺ももうすぐ仕事が片付くし……夕飯はそんなに遅くならないと思う
 この家では風呂と洗濯が藤空、料理から洗い物までを桐波、掃除は個々と役割分担している。
 藤空に料理をやらせると軽くゆでる程度のレベルの物なら平気だが、レシピ通りに作っているのにレシピ外の物が出来る、味が無い物が出来るというような悲劇が起きるからである。
 『料理が嫌いでは無い』と本人は言うが、1人でやらせると桐波の仕事が増えて仕方が無いのでそうなったのであった。
冬夏藤空
冬夏藤空
わかった楽しみにしてるね!
 藤空は桐波にそう返し、邪魔にならないように『残りのお仕事頑張ってね~』と去って行った。
 それを確認した桐波も仕事に戻る。

 この物語の主人公はこの2人の兄弟。
 変わり者ではありつつも仲良くやっている……残念イケメン達。
 そんな2人を待つ明日はどんな色をしているのか?
 ……そっと覗いてみませんか?

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