静かな車内の中で
ジャズの優しい音楽だけが響く
でも、繋がれた手のあたたかさに、
時折強く握られる度に
心臓の動きは早まって
ドク、ドク、ドクと
テヒョンに聞こえるんじゃないかと
鼓動が高まっていく
細い路地を抜けると
ぽつんと佇む1軒の映画館
オレンジのネオンの光が優しく看板を照らしている
入口の横を過ぎて駐車場に向かう
最新とは言えない
昔の映画のポスターが何枚か額に飾られ
一枚一枚を見るように窓に張り付く
そう言って広々とした駐車場に
前向きに壁に向かって駐車した
正面から隠れるように..
一応気を使った一言
一緒に入るのはきっと見られるとまずいから
テヒョンはなにも気にしないような口ぶり
本当に大丈夫かな..?
テヒョンは1度車を降りて
後部座席のドアを開けて
また運転席に戻ってきた
差し出された紙袋には
CELINEの文字が
小さなその紙袋から箱が出てくる
目を細めて優しく微笑むテヒョン
丁寧に包装されたリボンを解いていく
中には箱に入ったネックレス
パールとゴールドのチェーンの連なった
シンプルで映えのあるデザイン
CELINEでネックレスで
パールで、ゴールドのチェーンで連なっている
決して安価なプレゼントではない...
付き合ったばかりなのに、こんな高価なもの..
そう言って箱からネックレスを取り出すと
チェーンを外してわたしの首に手を回す
わたしはその動きに従う
テヒョンは満足そうに優しく笑う
わたしは振り返って窓ガラスに映る自分を見つめる
2連に連なるチェーンと
パールが綺麗にバランスがよくて
きっと誰がつけても気にいるはず
現にわたしも、すごく気に入っている
客観的なわたしへの容姿の褒め言葉は
そういう世界で生きてる人だからこそ
芯をついていて信用できる..
テヒョンの言う通り、
ネックレスがよく映えている、ようにも見える..
テヒョンは先に降りて
助手席の扉を開けると
手を差し出して降ろしてくれた
そのまま手を繋いだまま映画館に入る
こんな姿を誰かに見られないか不安で館内に入った
でも、受付のおばさまが
一度もこちらを見ずにチケットを渡し
中に入るまで誰にも会わずに部屋に入り、
中は真っ暗でなにも見えない..
一気にその不安はかき消された
手を離さずに席に座って
始まるのを待つ
周りは誰もいないし、
真っ暗で
安心して始まるのを待った
___フランス パリ
その情景はどこも美しく儚い
男女が出会い、恋に落ちて、別れる
派手な展開はなく、ただ淡々と進んでいく
でもその中の雰囲気や
ささやかな瞬間に思う部分が散りばめられて
考えさせられる
なにより街並みが1つ1つが美しい...
とは言いながらもフランス映画は慣れない
音楽もない淡々と流れる景色は眠気を誘う
それなのに、どうしても眠る気になれない
だって...//
小さな声で話しかけてくる度に
隣を見る度に
その距離感に戸惑う
映画館だから小声で届くように
耳元まで近づく距離が
微かに感じる吐息が
いちいちわたしをドキドキさせる..
繋がれた手のひらを優しく撫でる親指が
本当に愛おしいもの触るくらい優しくて
その距離感で目が合うと
眠気なんて飛んでいって
また、映画に集中する..
目の前には遊覧船から映し出される
エッフェル塔
夜空には月が見え始めて薄暗くなって
太陽が最後の力でエッフェル塔を照らす
昼と夜が重なったその時間の景色は
息を飲むほど美しく
大画面でみるとその場にいるような気にもなる
うっとりするようなその景色を
必死で追うように見つめる
その声に反射して振り向いた
一応バレないようにマスクと帽子姿で
目元しか見えないその奥で
まっすぐ見つめるその視線は
甘さ、そのもの...
透き通った瞳がわたしを捉えているとわかると
胸の奥が締め付けられて
体が高揚していくように熱くなる..
こんなにも誰かにときめくことはあったのか、と
胸が大きく高鳴っていく
テヒョンは相変わらず優しい口調で
甘い言葉を耳元で囁いてくる...
言葉1つで、声のトーンで
さっきより昨日より好きが増していく...
エンドロールの途中、
映画館がまだくらいうちに、
わたしたちは手を繋いだまま
映画館を後にした














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!