前の話
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Haechan × you
「今日も遅くなるから」
そんな言葉を残してあなたはまた玄関へと向かっていく。今から会いにいく愛しい人の事を考えてか、隠しきれていない煌めきの宿ったあなたの眼。遠ざかっていく後ろ姿を見つめる事しかできない自分がつくづく嫌になる。
バタンッとドアが閉まる音が周りの空気を沈め、重い空気が流れる。
あぁ、あの扉があなたと私を繋ぐ扉だったらなぁ... なんて叶うはずもない願いを呟いた。
一人で食べるには広すぎる食卓。
響く食器の音を包み込むかのように静まった空間。
これで何度目だろうか。
『愛してる』
最後に言ってくれたのはいつだっけ?
一緒におそろいだねってはしゃいで、
あったかかったハグも、愛してるのキスも、
『絶対幸せにする』
って言ってくれたのは嘘だったの?
考えれば考えるほど視界が滲んでいって、そのままベッドに飛び込む。
いっその事、突き離してもう関わらないでって言ってくれたら楽なのに...
いや、それでも
それでもあなたといられるなら、こんな関係でもいいと縋ってしまうほど
私はあなたに溺れていたんです。
あなたが来ないのを嘆きながら、
一人で寝る夜が明けるまでの間はどれほど長いものなのか、あなたは知っているだろうか。
いや、知らないだろう...
ー嘆きつつひとり寝る夜の明くる間はいかにひさしきものとかは知るー
右大将道綱母(53番)『拾遺集』恋四・912












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!