教室に入った瞬間、いつもより視線が多い気がした。
「……ねえ」
彼女が話しかけてくる。いつぶりだろう。
今日初めての会話がおはようじゃないのは。
「なに?」
「聞きたいことがあるんだけど」
「どーしたの」
席に着く前から、ひそひそと話してる女子たちの会話が耳に入る。
「一昨日、私見ちゃったの、
あのー、学校近くの喫茶店でさ…」
「あー……あそこか」
「しかも結構長くいたし」
「それは目立つね…」
「ただでさえ春香は可愛いんだし【陰キャくん】といたら目立つよね。」
どうやら僕のことを馬鹿にしているらしい。
まだクラスメイトたちの視線には慣れない。
チャイムが鳴るまで、まだ少し時間がある。
彼女が話の続きをする。
「さっき聞かれたの」
「うん?」
「“【陰キャくん】と仲いいの?”って」
「どう答えたの?」
「もちろん仲良しって答えたよ。私はね。」
含みのある、言い方をされた。
心当たりがあった。
「でも君は、仲良くないって言ったらしいじゃん」
一瞬、空気が止まる。
「え?」
「そのままの意味だよ」
彼女の顔は変わらない。
「それで、いったの?」
「とっさに」
「とっさでそれ言う?」
「ごめん」
「一昨日一緒にパフェ食べて?」
「食べた」
「同じメニュー頼んで?」
「頼んだ」
「スプーンも共有して?」
言っていなかったが、僕は結局彼女と関節キスをした。僕は彼女には勝てない。せざるを得なかった。
「……した」
「それで仲良くないは無理でしょ」
彼女は机に肘をついて、小さく息を吐いた。
「どうしてそんなこと言ったの」
「噂が広がるの、嫌かなって」
「私が?」
「うん」
「勝手に決めないでよ」
少しだけ、声の調子が変わる。
「隠したいなら、ちゃんと話してほしい」
「隠したいわけじゃない」
「じゃあ何?」
「……失うのが怖い」
彼女がこちらを見る。
「何を?」
「今の関係」
「壊れると思ってる?」
「分からない」
「私はね」
「うん」
「昨日、すごく楽しかった」
「……僕も」
「だったら、噂になるくらいで壊れないよ」
僕がなんて返答しようか迷っていると、チャイムが鳴る。
会話は終わったと思った。彼女はチャイムなんて聞こえないかのように、平然と続ける。
「ねえ」
「…なに?」
「怒ってると思った!?!?」
思考が停止する音が聞こえた。
今の彼女の顔は、癪に障るくらいの笑顔であった。
「うん」
「怒ってるわけないでしょ!!」
内心ホッとする。でもそれを表情には出さない。
「でも悲しかったんだからね!?
私は仲いいと思ってたのに!!」
「ごめん」
「ていうことで君には!!罰を受けてもらいます!!」
「え?」
彼女お得意の、話が飛躍するやつだ。
「それは私と出かけること!!!
今週末空いてる???出かけようよ!!」
僕は彼女には勝てない。どう頑張っても結局ついていくことになる。
「今週末は彼女とデートがあるから無理だ」
「彼女は私でしょ。浮気?
もうちょいマシな嘘つこうね!」
「いやほんとうに今週末は無」
「詳しい予定は後で教えるね!」
そこからは胸の高鳴りを抑えるので必死であり、記憶が曖昧だった。もしかしたら、僕はたのしみにしているのかもしれない。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。