ドシリアス…前回とは世界線ごと違う、というか各話に繋がりは基本ナイ。
雑くないか?まぁ初めての三人称なので、お手柔らかにお願いします。
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「よーい、ドン!」
その掛け声で、四人は一気に走り出す。
枷を付けた少年も、靴に車輪の付いた少女も、皆同じスピードで走る。
「愛ちゃん9.8秒、硴くん9.8秒、紗志ちゃん9.8秒、抱稚くん9.8秒。うん、みんな平等だね!先生は嬉しいです」
そう言って、にこにこ笑う2年A組のクラス担任。
「わぁい、硴くんと一緒!」
「硴だけじゃなくて、クラスメイトみんな一緒だぞ!」
「えー、なんで?」
「みんな平等、だからね」
「平等なんだ!平等だー!」
「やったー!」
喜び合う彼、彼女らを尻目に、ココアを冷ましながら啜る。ここで彼女も付け足してしまうのは平等教育の影響だろうな、と彼女、鳥羽真美は苦い気持ちを覚えた。
「何が楽しいんだろうね、あれ」
「さぁ?義務に対して喜びを感じる感覚は、僕には全く理解しがたいね」
そう答えて肩をすくめる少年、矢田春汰。平等を喜び合う人々へ向ける彼の視線は、氷のごとく冷たかった。
「あれが同じ中学二年生なのかい?それが事実なら、中学二年生なんてやめてしまいたいのだけれど」
「飛び級制度は全世界で廃止されたばかりじゃん。不登校だって、義務の放棄だって言われんだから、春汰はしないでしょ?」
「あぁ、しないさ。僕はルールは守るんだ。それがどんなに腐っていたとしてもね」
可笑しな信条だ、と思った真美だが、口には出さない。口に出せば、春汰の気が済むまで彼の正当性と真美の信条に対する批評が行われるであろうことは、長年の付き合いで嫌と言う程理解していた。
真美と春汰の生まれる数十年ほど昔、世界平等条約が施行された。同意国は、全カ国。大国と小国は平等であるために、不平等条約を結び、m走は運動能力の差を鑑みて、同じタイムが出るように各人に枷やブースターをつける。
名前や言語の統一も遠い話ではなさそうだ、と真美は憂鬱の息を吐き出した。
「小国に合わせるため学習レベルを引き下げたんだって?は、学舎の名が泣くよ」
「授業時間は自由時間で、勉強なんて教えてくれない…そう考えると、私って優秀じゃない?」
「あまり自惚れないほうがいいよ、僕のような天才の前では特にね。大体、君が優秀なのは僕という天才が君の幼馴染だったからだろう?それを忘れないでほしいね」
「はいはい、覚えてますよーだ天才様ー」
その当て付けるような言葉に苛立って「君ね…」と額に青筋の浮かべる春汰を肴に、真美は一気にココアを飲み干した。
「みんなー、今日はもう帰る時間だよー」
「えー、もう?」
「早いねー」
「じゃあ、さようなら」
「さよならー」
「さよおなら、なんちって!」
「やだー、きたない!」
そう騒ぎながら帰路につく生徒たち。全学年がこの時間に測ったので、その数は目眩がしそうなほど多い。自然と列ができて、真美たちはその後方に並ぶ。
できた列を見て春汰が呟く。
「平等ってなんだろうね」
その問いの正しい答えを知る人は、誰一人として存在しなかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。