お昼の『おでこにキス事件』の後から、何となく加賀美さんとぎこちない空気が流れてしまっている。
事件直後──
放課後の廊下を歩きながら、心の中で頭を抱える。
お互いに照れてしまって、なかなか上手く話せなかった。
自分の額に触れる。
あの感触が忘れられない。
…いや、忘れたくない。
頬にそっと触れる。
…一体、どうしてしまったのだろう。
加賀美さんに出会ってから、
色んな事が変わり始め、色んな気持ちを知った。
──加賀美さんに、伝えたい事があるの
私は加賀美さんを探そうと走り出した。
教室を探しても、職員室を覗いても、加賀美さんは見つからない。
諦めて帰ろうとした時、昇降口で声がした。
声のする方へこっそり歩いていくと、
…やはり、加賀美さんがいた。
だが…すぐ側に、同じクラスの美人と言われている女の子も立っていた。
私は影に隠れ、様子を伺うことにした。
後ろ姿しか見えないけれど、黒いサラサラの髪から覗く耳は真っ赤になっていて。
もじもじしている所を見ると、この後の展開はおおよそ予想がついてしまう。
その一言が冷たい氷の矢みたいにグサリと心に突き刺さる。
──もし、これでOKだったら?
最悪のことをどうしても考えてしまう。
手足が震えて、逃げ出したくても逃げ出せない。
バクバクと心臓が煩い。
呼吸が乱れていくのを必死で抑えた。
ぎゅっと目をつぶり、耳を塞ぎかけた瞬間。
加賀美さんはきっぱりと告げた。
けれど、何処か相手に心から申し訳ないと思っているのが伝わるような、悲しさもあった。
微笑む加賀美さん。
女の子は、
と言って、去っていった。
私は力が抜けて、その場にしゃがみ込んでしまった。
じわ、と目頭が熱くなり、顔を覆った。
その言葉にドキッとして顔を上げると、加賀美さんが私を見下ろしていた。
黙って頷くと、加賀美さんは私の腕を引いて立たせた。
加賀美さんの声が優しくて、引いてきたと思った涙がまた溢れてきた。
…ああ、きっと加賀美さんの好きな人には敵わない。
あの子すら入る隙間が無いんだから、きっと誰も入れないんだろうな…。
加賀美さんへ伝えたい事があったのに、嘘みたいにスッと消えてしまった。
もう諦めて、この気持ちとばいばいしよう。
それとも、いっその事バッサリと断ってもらった方が楽だろうか。
…どっちにしたって、精一杯の笑顔を届けよう。
心配しないように──













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。