あのとき私は、どんな顔をして、どんな言葉をかけるのが正解だったのだろうか。
ずっと、ずっと考え続けて、それでも答えは出そうになかった。
オンニが見ているものは、あまりにも壮大なもので、口先だけの言葉では救うことも癒すこともできない。
きっと私は、オンニの言った言葉の意味を、そしてその裏に隠れた本当の気持ちを、半分も理解しきれてはいないのだろう。いつか全部わかるときがくるのだろうか。でもその頃には、オンニはまたずっとどこか遠くに行ってしまっている気がする。
まるで蜃気楼のようにゆらゆら揺れるオンニの影を、私はそばで眺めることしかできないのだろうか。
自惚れていたんだ。私だったら、あなたオンニの寂しさや孤独を癒せるかもしれないって。
だって、あんなに楽しかった。オンニと話せば時間はあっという間に過ぎて、2人並んで歩けばそれは永遠にも思えた。
暖かくて、愛しかった。たくさん、たくさん笑った。オンニだってたくさん笑ってた。それが本当に嬉しかったんだ。
それなのに……
最後に見せた、オンニの悲しげな笑顔が頭から離れない。
「オンニ〜、靴出しっぱなしだと汚れちゃいますよ〜!せっかくかわいいのに〜」
宿舎のソファの上でぼーっとしていると、玄関からウンチェの声が聞こえた。
「んー、後でしまうー」
「そう言って全然やらないじゃないですか〜!」
ウンチェのぶつくさ言う声がぼんやりと聞こえてくる。
あなたオンニと出かけて以来、1度も履いていないあの靴。どうしてもしまう気になれないのは、なぜだろうか。
「心ここに在らずって感じだね」
クラオンニがコーヒーを両手にやって来て、私の隣に座った。ひとつを私に手渡すので、大人しく受け取る。
「何か、悩みごとでもあるの?」
オンニが聞く。
「…ん〜、まぁちょっと…」
「はは、あんまり言いたくない?」
「…そういうわけじゃ、ないんだけど…」
オンニがくれたコーヒーを一口すすった。
ちょっと苦かった。
「私って、無力だなぁって思って」
「どうして?」
「…目の前に、苦しんでる人がいて、ただ笑っててほしいのに…
私にはどうすることもできないから…」
「…なんで、どうすることもできないの?」
「それは…」
言ってて少し泣きそうになった。
「それは…見てる景色が違いすぎるから…」
涙をこらえ、俯く。オンニはそんな私をじっと、優しく見ていた。
「見てる景色ねぇ…」
オンニが私の背中をさすりながらつぶやいた。
「私は…その人が何で苦しんでて、どんな景色を見てるのか知らないけど…
でもその人は幸せものだね」
「…なんで…?」
私は顔を上げてクラオンニの方を見た。オンニはとても優しい笑顔で私に言った。
「ユンジンがいるからだよ」
「え…」
「私思うんだ。人の考えってそう簡単に変わるものじゃないし、ましてや人の心を動かすことも、悩みを解決してあげることも、できないことのほうが圧倒的に多い。でも…それでもなおそうしてあげたいって思ってくれる人がそばにいるだけで、その人は十分救われてるんじゃないかなって。だから私は、常に大切な人の味方でいたい。たとえそれが、どんなに無意味に思えたとしてもね」
クラオンニは、私の目をじっと見つめた。
「ユンジンもそうでしょ?」
「…ッうん…」
いつの間にか、私の目から涙がとめどなく溢れていた。我慢していたわけでもないのに、次から次へと溢れ出た。
私はあなたオンニのことを思った。
オンニと知り合う前から、私がどれだけのものをオンニからもらっていたか。オンニが話しかけてくれた時、私がどれだけ嬉しかったか。オンニと過ごした時間が、どれだけ尊いものになっているか。オンニの強さも弱さもひっくるめて、私はただオンニが大好きなんだ。
伝えなければと思った。たとえそれが、なんの意味も為さなかったとしても。
クラオンニは、泣きじゃくる私を抱きしめた。
「ユンジンは優しいね。その人のことが、ほんとに大切なんだね」
「うん…大切…大切だよ」
「大丈夫だよ。ユンジンの気持ちはちゃんと伝わるよ。伝わらなかったら、その人がバカなんだよ…」
「…んふふ、バカって…」
「だってそうでしょ!?私はその人が羨ましいよ。ユンジンにこんなに思ってもらえるなんて!」
クラオンニは私の両肩をグッと掴んで叫んだ。
「あははは!なんでオンニがキレてんの」
「なんか…ごめん…キレちゃった…笑」
オンニは少し恥ずかしそうにコーヒーをすすった。私は笑いながら、涙を袖でぬぐう。
「ありがとう、オンニがいてくれて本当によかった」
私が言うと、クラオンニは笑顔でそっと頷いた。
聖母クラオンニに登場していただきました〜!
ごめんなさい、やっと次終わりそうです( ..)՞












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。