第123話

おまけ
2,063
2023/01/24 04:36



到着した現場は、諦めムード











モブ
ぁ、あなたの唄ちゃん…
あなた
どうしたんですか
モブ
出血多量で、輸血が必要なんですが血がないんです
あなた
そこにいるのはお母さん?お母さんの血液型は
モブ
一緒ですが、輸血できる器具が届く頃には…





モブ
確か、あなたの唄ちゃんの個性は、傷は癒せるけど、血液を増やすわけではないと噂で聞いたんですけど…
あなた




緊急の時は、よくリカバリーガールに引っ付いて病院を回っていた







時間が経つにつれ判明したそれは、半分事実半分嘘と言った所だろうか







あなた
……一応増えます。と言っても、私の個性も一度外に出たものを完璧に戻せる程万能じゃない
あなた
ここまで出血していたら繋ぎ止めても器具が届くのを待ってたら間に合うかわからない





あなた
お母様は持病あるかとか聞きましたか。


モブ
ああ一応…、献血も2週間前に受けたらしく問題はないそうです






顔を青ざめて俯く母親に近付いて声をかける









あなた
お母様、私は医者でも、プロヒーローでもありません。失敗したら2人ともの命を奪ってしまうかもしれない












あなた
それでも、力を貸してくださいますか






モブ
えぇ…!可能性があるのなら…!




彼女の震える手に、私の震えた手を重ねる







安心なんてさせられないかもしれないけど、それが精一杯の意思表明だった
あなた
………頑張ります
相澤消太
おい、あなたの唄、まさか









あなた
……大丈夫。あっちにいた時似たような事やった事ある



あなた
個性さえ、ちゃんと使えれば…





相澤消太
………







あなた
できる、やる。ちゃんと、やる






自信なんてない。
それどころか、怖くてしょうがない。

自分に言い聞かせるみたいに何度も呟いたら、目の前が真っ暗になった








相澤消太
あぁ、大丈夫。あなたの唄なら出来るよ
あなた
……、ありがとう












あなた
なるべく周囲に見えないようにしてくれませんか




言うより先にプロヒーロー達が囲んでくれる



砂埃や異物混入がないように、周囲を水で囲む

まずは適当な歌で怪我を治す
脈が多少戻ったことを確認し、お母さんの腕を取り採血しやすい位置を探る







あなた
さっきはあぁ言いましたが、一応個性柄勉強はしてます






あなた
ただ、今は針もチューブもない。個性で代用します。普通の採血より最初痛いと思います
モブ
わ、わかったわ
あなた
普段採血して、気持ち悪くなったことや倒れた事はありますか?
モブ
ないわ、平気よ




あなた
……、普通の針じゃないし、どうなるかわからない、横になっていてくださいね
あなた
あなたが初めてではないのでそこは安心して大丈夫です
モブ
えぇ、ありがとう




何度深呼吸しても、心臓がうるさい。
歌っていても聴こえるのは心臓の音だけで、外側を向いて立つ消太さんの手に指を絡める


握り返してくれたのを合図に輸血を始める









あなた
消太さん、手を離したら、時間を測って。1分毎に教えて
相澤消太
わかった



まずは、氷で作った針をお母さんに刺す
同じように息子さんにも針を刺す

そして、2つを繋げるように水でチューブを作る

空気が入らぬようにチューブ内を軽く操作する

お母様の血液を吸い上げ、息子さんの体に入る前に
もう一度空気の確認をする








あなた
よし…



消太さんの手を離すと、最初の20秒は口に出して伝えてくれた
言わずともやってくれる彼に、心の中で感謝をして
後は目を瞑って血液の流れる速度に気を張る










1分間で1mlを超えないように






ゆっくり、ゆっくり。

5分が経ち輸血を続けながら、容体を確認。













そこからさらに10分が経った頃、息子さんの様子を見る



拒否反応は起きていないようだ。
脈も落ち着いてきている











あとは救急車が来るまでは速度を少し早めて、




それから……、











それ、から…、………っ…












((piー…poー……






相澤消太
…救急車が近い。その子が平気そうならやめよう
あなた
……はい







あなた
お母さん、気分は?
モブ
平気よ。あなたの唄ちゃん、ありがとう……






泣きながら強く手を握られる







あなた
……、いえ…。


ある程度は血液の量も足りているだろう。
あとは救急車が来るまで歌っていたら、もしかしたら目を覚ますかもしれない


ついでにお母さんも治癒をして、針の傷を治す
恐らく抜いた分くらいの血液は戻っているはず








モブ
…、っ…
あなた
…お名前は?




掠れた声で返事が聞こえる
意識ははっきりしているようだ







あなた
どこか痛いところや違和感を感じるところは?
モブ
…特には…、ただすごくだるい
あなた
よかった、怪我した事は覚えてる?


モブ
覚え、てる…、、、
あなた
もう傷自体は治ってるから。血が足りないからだるいだけだと思うけど、もうすぐ救急車が来るからね?




あなた
あとでちゃんと検査してもらってね




あなた
お母さんも、……治癒したし平気だと思うけど、検査はしっかりしてもらってください
モブ
ありがとう、本当にありがとう…





モブ
あり、が…とう…、俺のヒーロー








数分してから、辿り着いた救急車から隊員が降りてくる
状況の説明は消太さんが積極的にやってくれる
ただ後ろにいて、聞かれたことにだけ答えて

検査をした方がいい事だけ最後に伝えて、救急車を見送った


私が助けた彼は時間が経つにつれ体も楽になってきたのか、救急車に乗り込む頃には自分で歩いていて
ドアが閉まる直前まで大声でありがとうと言いながら手を振っていた











あなた
……すっごい元気
相澤消太
さっきまで顔真っ青だったのが嘘みたいだな





あなた
うん、……疲れた
相澤消太
ん、お疲れ。帰るか





有無を言わさず横抱きにされて
抵抗する気力もなく、受け入れる








相澤消太
……、すげぇかっこよかった
相澤消太
怖かったろ、1番怖がってた使い方だったのに止めれなくてごめん












相澤消太
………やっぱり、あなたの唄は敵なんかじゃないよ





相澤消太
自分が辛い時に、他人を助けるためにここまで必死になれる奴をヒーローと呼ばないなら、世も末だ






















相澤消太
なぁ、ヒーロー。助けてくれてありがとう
相澤消太
君がいてくれてよかった














相澤消太
出逢えてよかった。





















相澤消太
生まれてきてくれてありがとう





相澤消太
今まで、頑張って生きてくれてありがとう




頭の中ぐちゃぐちゃで、冷静さのかけらもなくやり遂げた血液の操作
ちゃんと出来たという安堵と、暖かい言葉に涙が溢れる








首に腕を回して抱きついた後、耳元で聞こえた声に涙は余計止まらなくなってしまって
それと比例するように、ここ数日強張っていた体も心もほぐれた












相澤消太
あなたの唄は、その個性の事、怖い個性だ、人の命を簡単に奪える個性だと言うし、きっと何度も思っただろ
相澤消太
実際それも事実だが…、でもやっぱり俺は暖かい個性だと思うよ






相澤消太
多くの人を救った、救う個性だ






相澤消太
なぁ、気付いたか?
相澤消太
あなたの唄が個性で治癒している間、あいつら安心し切った顔で見守ってた






相澤消太
助けたのは、あの家族だけじゃない。プロヒーローの心すら支えてたんだよ





相澤消太
ヒーローのヒーローに。その夢、思ったよりずっと早く叶うさ













相澤消太
もう叶ってると言ってもいいかもな。会ったこともないプロヒーローが緊急時に1番最初に助けを求めるのがあなたの唄なんだぜ?




まだ仮免も持ってないのにな。なんて小馬鹿にして
誇らしげに笑っている彼の首にグリグリと頭を押し付ける










相澤消太
……どうせ明日からまた死ぬ程頑張るんだろ?今夜はゆっくり休め。小さなヒーロー





彼はいつもこう。
普段は無口で、言葉少なめなのに
私が辛い時は、よく喋る。
燃えそうなくらい暖かい言葉ばかりを口にする

考えすぎてしまう私にも、勘違いがないくらい真っ直ぐに言葉にして伝えてくれる



そして、あっという間に前を向かせてくれる








あなた
ありがとう…、頑張る。
相澤消太
ん、おやすみ

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