到着した現場は、諦めムード
緊急の時は、よくリカバリーガールに引っ付いて病院を回っていた
時間が経つにつれ判明したそれは、半分事実半分嘘と言った所だろうか
顔を青ざめて俯く母親に近付いて声をかける
彼女の震える手に、私の震えた手を重ねる
安心なんてさせられないかもしれないけど、それが精一杯の意思表明だった
自信なんてない。
それどころか、怖くてしょうがない。
自分に言い聞かせるみたいに何度も呟いたら、目の前が真っ暗になった
言うより先にプロヒーロー達が囲んでくれる
砂埃や異物混入がないように、周囲を水で囲む
まずは適当な歌で怪我を治す
脈が多少戻ったことを確認し、お母さんの腕を取り採血しやすい位置を探る
何度深呼吸しても、心臓がうるさい。
歌っていても聴こえるのは心臓の音だけで、外側を向いて立つ消太さんの手に指を絡める
握り返してくれたのを合図に輸血を始める
まずは、氷で作った針をお母さんに刺す
同じように息子さんにも針を刺す
そして、2つを繋げるように水でチューブを作る
空気が入らぬようにチューブ内を軽く操作する
お母様の血液を吸い上げ、息子さんの体に入る前に
もう一度空気の確認をする
消太さんの手を離すと、最初の20秒は口に出して伝えてくれた
言わずともやってくれる彼に、心の中で感謝をして
後は目を瞑って血液の流れる速度に気を張る
1分間で1mlを超えないように
ゆっくり、ゆっくり。
5分が経ち輸血を続けながら、容体を確認。
そこからさらに10分が経った頃、息子さんの様子を見る
拒否反応は起きていないようだ。
脈も落ち着いてきている
あとは救急車が来るまでは速度を少し早めて、
それから……、
それ、から…、………っ…
((piー…poー……
泣きながら強く手を握られる
ある程度は血液の量も足りているだろう。
あとは救急車が来るまで歌っていたら、もしかしたら目を覚ますかもしれない
ついでにお母さんも治癒をして、針の傷を治す
恐らく抜いた分くらいの血液は戻っているはず
掠れた声で返事が聞こえる
意識ははっきりしているようだ
数分してから、辿り着いた救急車から隊員が降りてくる
状況の説明は消太さんが積極的にやってくれる
ただ後ろにいて、聞かれたことにだけ答えて
検査をした方がいい事だけ最後に伝えて、救急車を見送った
私が助けた彼は時間が経つにつれ体も楽になってきたのか、救急車に乗り込む頃には自分で歩いていて
ドアが閉まる直前まで大声でありがとうと言いながら手を振っていた
有無を言わさず横抱きにされて
抵抗する気力もなく、受け入れる
頭の中ぐちゃぐちゃで、冷静さのかけらもなくやり遂げた血液の操作
ちゃんと出来たという安堵と、暖かい言葉に涙が溢れる
首に腕を回して抱きついた後、耳元で聞こえた声に涙は余計止まらなくなってしまって
それと比例するように、ここ数日強張っていた体も心もほぐれた
まだ仮免も持ってないのにな。なんて小馬鹿にして
誇らしげに笑っている彼の首にグリグリと頭を押し付ける
彼はいつもこう。
普段は無口で、言葉少なめなのに
私が辛い時は、よく喋る。
燃えそうなくらい暖かい言葉ばかりを口にする
考えすぎてしまう私にも、勘違いがないくらい真っ直ぐに言葉にして伝えてくれる
そして、あっという間に前を向かせてくれる
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!