第21話

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2026/07/08 12:00 更新



「ごめん。」





仁人は小さく呟いた。





「俺が悪い。」


「え?」


「ちょっとだけ。」





視線を落とす。





「余裕なくなってた。」





言葉にした途端、少しだけ楽になるはずだった。




でも実際は、その逆だった。


言ってしまったことで、隠していたものが全部あらわになっていく気がする。





沈黙が流れる。



廊下には二人しかいない。




聞こえるのは、お互いの呼吸だけだった。




その静けさの中で、あなたは何かを言いたそうに唇を開いて、それでも言葉を探すように迷っている。




その様子を見て、仁人はますます自分の気持ちを抑えられなくなった。






「……あの日。」




仁人がぽつりと口を開く。




「舜太と話してたでしょ。」




あなたは目を丸くした。




「見てたの?」


「隣だったから。」


「あ……。」




思い出す。


耳打ちして、二人で笑ってしまったことを。


あの時は、ただサプライズの相談に夢中だった。



でも、今になって思えば、あの光景を見た仁人くんがどう感じたのか、少しも考えていなかった。


胸の奥がひやりとする。





「ごめん!」




慌てて頭を下げる。




「違うの!」


「違う?」


「実は……。」




言いかけて、ふっと笑ってしまう。


緊張していたはずなのに、今さらながら状況が可笑しくなってきた。




「いや、今さら言っても遅いか。」


「何?」


「サプライズの相談だったの。」


「……え?」




仁人が顔を上げる。




「当日券で仁人くんのツーショット取れたから、びっくりさせようって。」

「それを舜太くんに話してたの。」






一瞬。


本当に時間が止まったようだった。






「……え。」

「だから耳打ちしてたの?」



「うん。」



「じゃあ……。」

「舜太と笑ってたのは?」



「仁人くん絶対びっくりするねって。」





その言葉を聞いた瞬間。


仁人は額に手を当てた。





「……終わった。」


「え?」


「俺、一人で勘違いしてた。」




思わずしゃがみ込む。




「うわ……。」



耳まで赤くなっている。




「恥ずかしい。」




その姿があまりにも珍しくて、さっきまでの不安が少しだけほどける。




でも同時に、胸の奥には別の熱が残っていた。





「仁人くん?」


「…俺さ。」




少し笑って、それから困ったように頭をかく。




「舜太と仲良さそうなの見て。」


「うん。」


「めちゃくちゃ嫉妬してた。」




その一言に、あなたは目を見開く。




「……嫉妬?」


「うん。」





隠すつもりだった。


絶対に言わないつもりだった。


でも、もう誤魔化せない。




言わなければ、このまままた距離ができてしまう気がした。





「俺。」




少しだけ近付く。




「あなたが思ってるより、ずっと余裕ない。」




目が合う。




優しい瞳。






でもその奥には、今まで見たことのない真っ直ぐな感情が宿っていた。



それが嫉妬だと分かった瞬間、なぜか胸が苦しくなる。



嬉しいのに、戸惑う。




そんな気持ちが一度に押し寄せて、どう受け止めればいいのか分からなかった。




「俺のことも見てほしい。」




その声は、小さく震えていた。




「推しが舜太なのは知ってる。」


「それでも。」


「隣で一緒に笑う時くらい。」




少しだけ照れたように笑う。




「俺も、あなたの特別になりたいって思っちゃう。」





胸がどくんと鳴る。


こんな言葉。


想像もしていなかった。





嬉しい。





すごく嬉しいはずなのに、同時にどうしてこんなに動揺しているのか、自分でも分からない。






何も返せない私を見て、仁人くんは困ったように笑う。





「ごめん。」


「急にこんなこと言われても困るよね。」





そう言って一歩下がる。


その一歩が、妙に寂しく見えた。





「今日は忘れて。」


「仁人くん……。」


「おやすみ。」






静かに自分の部屋へ入っていく。




閉まったドアを見つめながら、私はその場から動けなかった。






“ 特別になりたいって思っちゃう ”






その言葉が、何度も頭の中で繰り返される。


ただ少し嫌な気持ちにさせたかなと思っていた。



でも、あの真っ直ぐな目を思い出すたび、そう簡単には片付けられない気がした。




それは、ただの嫉妬なのか。

独占欲なのか。




それとも、もっと別の意味があるのか。




分からない。




分からないのに、胸だけがどんどん熱くなる。




その意味に気付き始めた時、私の胸もまた、今までとは違う速さで鼓動を打っていた。






——二人の関係が変わる夜は、もうすぐそこまで来ていた。






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