思わず3人に訊ねた。
大嫌いなはずのあの子に主役であるシンデレラをやらせるなんて。しかも相手は彼女らだって大好きなあのピュアラブだ。なのに、なぜ。
きょとんと目を丸くする私に、3人はクスクスと嘲笑いながら何か悪い企みでも考えているかのように神谷さんがニヤリと口角を上げた。
神谷さんの笑顔は、どす黒くてどこか恐ろしかった――――。
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表上でのシンデレラのシナリオはこうだった。
継母達にこき使われているシンデレラは、ある日王様のいる城で行われる舞踏会の話を聞き、母の残したドレスを着て行こうとした。が、継母や義姉様にボロボロにされてしまう。
絶望に陥っていたシンデレラの前に現れた1人の魔法使いは、新しいドレスと靴を差し上げる。
お陰で無事に舞踏会へ行けることになったシンデレラは、王子様と踊り語り、12時の鐘が鳴ると同時に逃げ去って行く。その後シンデレラの残したガラスの靴を頼りに探し出し結婚。
よくあるシンデレラと同じ話だが、問題なのは王子様が2人いる事。そこで考え出された結果、魔法使いをもう1人の王子様とする事だった。
舞踏会で謎の美女の正体に気付いた継母達が、シンデレラを恥晒しに遭わせ、自分の娘達がそれぞれの王子と結婚するという、シンデレラの魅力も糞もないような話だった。
そんな訳の分からない話が通用する筈がない。それじゃあシンデレラでも何も無い。そんなの私だって充分分かっている。それに、正直親友だったあなたをこれ以上裏切るような事はしたくない。
だが、相手はあの神谷さん達だ。もしもあなたを助けたら、今度やられるのは私の方…………。
憂鬱だった。
権力の無い弱者は、権力を持っている強者に従わなければいけない。それが世界のルールとでも言うの………?
1度あなたを裏切るような事をした私だけど、でももしもあなたさえ許してくれるならまた親友に戻りたい。今はちょっと気まずいけど、いつかきっと………必ず。
そう、思っていたのに。
なのに、なぜこんな事に――――。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!