聴覚、嗅覚、触覚……
そして、視覚。
一つずつ、確かに戻っている感覚がする。
良かった。目覚められた。
視界の先に広がっていたのは、暗い光景。
紫色の煙が周辺を漂い、模様の刻まれた床の上に私は倒れ込んでいる。
みんなの姿が一つもないことに気づき、急いで立ち上がる。
ひとまず、周りを探してみるしかないのかも…?
入ってきた際に、あの独特な扉があったはず…
と、後ろを振り返ってみたものの。
壁。
薄紫色の、壁。
後ろには、扉どころか道すらも存在していなかった。
軽く自己暗示をかける。
……心で深く感じた、嫌な予感を差し置いて。
そうだよ。そもそもこんな所に教師1人が倒れ込んでるのが謎なんだよ。
誰かが引きずって来たくらいしか考えられない。23歳の私を軽々と持ち上げられる子なんてあの中にはいなかった気がするから、、、
と思っても、引きずられたような痕もない。
わからん。
素直に妥協した。
けっこう歩いただろうか。
目に、入場ゲートらしきものが見えた。
でも、ピューローランドのアトラクションにこんなに大きいゲートがあるの……?
アトラクション内も中々の広さのようだし…
疑問を口にこぼしながら、ふと上を見上げてみた。
するとそこには…

大きい門。
知らないテーマパークの入り口を示す門だった。

……どうやら、ここに入ってみるしかなさそうだ。
誰かから「入ろうよ」と念を押されたような感覚を感じたが、特に気にせずに前へ進んだ。
入場ゲートを潜り抜けた先は、広場だった。
…そして
そこには、確かにあの場にいた1班、2班、3班のみんなが縦横無尽に横たわっていた。
寝息は感じる。更に耳を澄ませてみる。
みんなの安全を確認した後、何をしようか悩む。
そう思って、偶然近くにいた…
アマリスくんを、起こしてみることにした。
アマリスくんは私の声に気づいたのか、瞼をゆっくりと開いて起き上がった。
辺りに散っているみんなの姿を見て、思わず驚愕の声をあげるアマリスくん。
普通に…?
いや、意識が崩れて…気づいたらここに居たはずじゃ__
こっちこそ聞きたい。私は扉になんか入っていないんだって。
気づいたらここの外で倒れていたんだって。
でも、そうだよねと静かな圧をかけてくるアマリスくんには逆らえず、ひとまず“そういうこと”にしておいた。
そうか、探索か……
思えばここまで係員さんやスタッフなどを誰一人見ていない。
他の班の子達や、別クラスの子、先生もだ。
もしかすると、他にも誰かがいるかもしれない。
善は急げ。私は場をアマリスくんに任せて探索に出かけた。
驚きが一つ。
行こうとしたところに規制線があり、その先には厚く覆われた霧しかなかったこと。
ずっと歩き回っていたのに誰にも合わなかったこと。
入れる場所が…
この“休憩所”みたいなところ以外にないこと。
私は意を決して“ただ一つだけ入れる建物”の中に入ったのであった。
…一言で表すと、薄暗い。
外に覆われている霧がこの建物の内部にまで及んでいるのかと思うくらい、絶妙な暗さをしていた。というか本当に不気味。
…まずは誰かいるか確かめなければ。
沈黙。
結局ここにも人はいない。
仕方ない。あとで力づくで入ってやる。
次に捜索したのは電気。とにかく明るさが欲しかった。
入って左の壁に電気のスイッチと思わしきものがあり、それを押すと上の照明に一気に光が灯った。
照明問題はなさそうだ。安心安心。
とするとある程度の設備は整っていることになる。
そう呟いて私は奥側にある手洗い場の蛇口を捻った。
すると不安を溶かすように蛇口から清潔な水が流れ出た。
頑張ればここで住めれないことはない。住むとなれば大問題だけれど。
他にあったのは自販機2台、ウォーターサーバー、トイレ、座れる椅子と机がセットで4つ。
隣の部屋にはテントが5つとキッズスペースがあり、寝泊まりするのにちょうど良さそう。
そういえばすっかり忘れていた。
…スマホのことを。
願って電源をつけた先、
液晶画面の上部にあるWi-Fiマークはなく、【圏外】という文字が浮かんでいただけだった。
緊急連絡先を押し、110と入力して電話をかけてみるも、一回のコール後に電話に出れない事を表す音声が流れた。
教師失格だろ、こんなの。なんか似た小説あったよね。生物失格だっけ?
…いやそんなことは今どうでもいい。連絡手段が途絶えている今、私はどうすれば_
雑音が混じった声。
ギリギリのラインで何を発言していたのか認識できる。
狂気に微笑する子供の様で、
やっと回った絶望の歯車に安堵した後の様で。
…どこかで聞いたことがあるような声のようで。
気味の悪い悪寒を差し置いて、私は広場まで戻ることにした。





























編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!