飛び交う炎を躱しながら、なんとか少しでもシルフィスとの距離を埋めようとするが、向こうはその動きすら読みながら魔法を発動してくる。行く手を防がれ、一つの判断の誤りで体が消し飛ばされてしまいそうだ。
その間、シルフィスはほんの僅かにも動かず、こちらに魔杖を向けているのみだ。最小の動きでこちらを仕留めようとしている。
間違い無い、魔法の原初に近い古代魔法だ。
攻撃の合間を縫ってこちらをシルフィスに向かい魔法を放とうとするが…駄目だ。その腕すら撃ち抜かれてしまいそうである。
ただ、避け続けることが出来るのも永遠ではない。体力が確実に削られてきているのを感じる。
ミスルトゥの前を立ち塞ぐように鎌を振り上げるマネハール。
かろうじてその一薙ぎを避けるものの、マネハールはそのままぐるんと体を回転させ、素早くもう一撃を繰り返す。
その刃の鋭さは異様だ。ミスルトゥの体に鎌の刃が通り抜けていく。その刃は人体をまるでバターのように滑らかに切断し、音すら生じさせない。
しかし斬られたという事実を突きつけるように傷口から血が噴き出し、斬られた腕が地面に落ちる。
その言葉とともに、切断面から蔦が伸びるように筋組織がズルル…と再生していく。
回復能力持ちか…とマネハールが感心している時だった…
地面に落ちたミスルトゥの血から斬撃が飛び、マネハールへと襲いかかる。咄嗟に掌で受けたが、そこにはしっかりと傷が刻まれ、真っ黒な血が流れ落ちた。
そう言ってミスルトゥは地面に落ちた自分の切り落とされた腕を拾い上げる。
途端、マネハールはその僅かな隙に自慢の鎌を叩き込んだ。生半可な防御魔法なら簡単に貫通する。
こんな行動、何かよっぽどの策がなければしないだろうとは考えた。
だが、完全に首を切り落とすのは難しくても、生物は血を失えば死ぬ。大動脈に届くだけでいい。
…だが、手に感じたのは何かを引き裂く感覚ではなく、骨より硬い何かに刃が引っかかり…
ミスルトゥの手に握られた腕の皮膚が消失していき、中の肉が変質していく。歪に伸び、結晶化したそれがマネハールの鎌を防ぎきっていた。
そしてミスルトゥがその鎌を振るうと赤黒い結晶が飛び散る。そこから現れたのは血の色をした一振りの剣だった。

ミスルトゥの言葉にマネハールはハッとして口を塞ぐ。しかしもう遅い。
再び振るわれる鎌の一撃。
小柄な体躯に対し、その一撃は重い。
なんとか防ぎはしたが、衝撃を上手く受け流さなければ吹き飛ばされてしまいそうだ。

魔法を避け続けてどれ程経ったか。息が上がり、喉の奥から血のような味がにじむ。
その上背中のやけどが服と擦れて血や血漿がべっとりとついているのを感じる。
肺が痛み、乾いた咳が出て止まらない。そんな様子のあなたを見てシルフィスが優越感に浸るように目を細める。
…確かに今まで戦ってきたのなんて酔っ払いや悪魔に憑かれた子供や魔法を少しかじっただけの違法魔道具所持者…
本格的な戦闘なんてコレが初めてだ。その相手がプロだなんて、勝てっこない。
…だがそれは正面からの魔法での勝負にかぎった話だ。先程のように魔法での戦闘という枠組みの外に出れば自分のほうが格上らしい。
そして運がいいことに相手は完全に油断していた。
狂った笑みで自分語りを高らかと発しながら、魔杖から火球を飛ばす。
避けようとするも体力も限界だ。足がもつれ、その攻撃をマトモに食らってしまう。
火球に触れた瞬間炎が爆ぜ、体が吹き飛ばされる。
そして地面に叩きつけられた途端背中の火傷で服に張り付いた血と血漿が剥がれ、皮膚を剥がれるような激しい痛みに呻きと共に身をよじれば、シルフィスはそれを満足そうに眺めていた。
自らに言い聞かせるようにシルフィスは狂気的に声を荒げる。…どうやらまともではないらしい。あの悪魔に何をされたのかは分からないが、あの悪魔との関係は良好ではないようだ。
ならば、何故!と地面に這いつくばったまま彼に問う。
隙だ。僅かな隙があれば勝てる。
彼は気をよくしていたのもあるのだろう。目論見通り悠々と話しだした。
その言葉とともに頭を踏まれて押さえつけられた。
鋭い砂の粒が頬に刺さる。
一応向こうも用心はしているのか、その足を掴もうと今度は中々バランスを崩してはくれない。
シルフィスはあなたを踏みつけたまま高らかに、まるで古い物語を聞かせるように語りだした。
ミスルトゥはマネハールの攻撃を武器で受け止めながら、あなたの事を心配していた。
今あなたと交戦しているマネハールの手下は明らかに魔力量からしてあなたより格上だ。
そしてピンチなのはこちらも同じく。
戦闘の技術はこちらが上とはいえ、マネハールの鎌を受け止め続けた剣は刃が潰され、削られ、砕かれるまでは時間の問題だ。
本来、姿を変化させる能力を応用し、自らの血肉で作り出したこの剣は一般的な金属より遥かに強度があるはずなのだが。

ミスルトゥがパチンと指を鳴らしたその瞬間。
夜空を裂く閃光がそこから迸る。
昼の太陽より眩しい閃光が間違いなくこの光の近距離に居た二人の目を焼いた筈だった。
しかしミスルトゥは既に攻撃の構えを取る。
ミスルトゥの額にはこの一瞬の間に生成された目玉が光る。
相手はこの光で前など見えるはずもない。ミスルトゥも元々あった視界は潰されているが、額の目は確実にマネハールの動きを全て見下ろしていた。
勝てる…!一気にケリをつけるべく剣を振るう。
しかしその一撃はマネハールには届かなかった。
マネハールが振るう鎌の一撃により、ミスルトゥの剣は決定的に砕かれ、折れる。
視界は潰されていた筈だ、なのに、何故。
そう聞き届けるや否や、マネハールはミスルトゥの首を目掛けて鎌を振るう。
腕や足を切ってもすぐ再生される。なら頭なら…と考えが至ったのだ。
そしてその鎌がミスルトゥの肉を捕らえた瞬間…その感覚が溶けた。
勢いよく宙を空振り、体勢を崩すマネハール。
周囲を見てもミスルトゥの姿はない…ように見えるが、マネハールのその目は確実にミスルトゥの『姿』を捉えていた。
異変に気が付き咄嗟に口を覆うものの、すでに遅かった。
マネハールの喉を裂き、一本のナイフが真っ黒な血と共に地面にカランと落ちた。
そのナイフの周囲に煙が集まり、ミスルトゥの体が『再構築』されていく。
初めてマネハールの表情に明確な恐怖が浮かぶ。
適当に何人か首を貰って帰るだけのつもりだったが、もはや自分自身の生存すら怪しい。
ミスルトゥの手に再び炎が灯る。空を焦がす紅蓮の炎だ。

マネハールは宣言とともにズズズ…と自らの影に沈んでいく。
逃がすものかとミスルトゥが放った炎がマネハールの体を焼き焦がすが、その炎も影の中までは届かない。
マネハールが影の中に完全に姿を溶かした時、そこには闇と静寂だけが残された。
シルフィスの足の下で藻掻きながら、彼の意気揚々の語りを聞く。
しまった、一通り満足するほど話したら此奴は自分を殺す気だ。しかし今彼に向かって魔法を放った所で簡単に防がれる。
彼の意表をつかなくては…。
ならば、彼を直接攻撃しなければよいのではないか。
今の所は、だが彼の攻撃パターンは極めて少ない。
こちらに対して炎の玉を飛ばすだけだ。なら向こうの狙いを大いに崩してやることが出来たら…
とは言っても、彼の足を掴んだ所で今度は警戒され簡単には転ばなさそうだ。もっと強いエネルギーが必要となる。もっと莫大な、爆発的な…
爆発…そうだ、此奴の魔法はあまりに使い勝手がいい。
いわば自爆攻撃にはなるが、試す価値はある。
地面に付く手に魔力を込めると、ボッ、ボボッと火がそこから溢れる。
頭上でシルフィスの魔杖を向けられているのを感じる。しかし、こんな所で…!
チャンスは一度きりだ。
シルフィスの魔杖に炎の魔力が集まるのを感じる。
…そこで、彼は無意識に行っているのだろうが、二段階の発火…魔力のなかに更に魔力を込める入れ子構造を感じた。
弱い魔力による『外殻』の中に高威力の魔力を込める…
これが爆発力の正体か…。
そんな言葉とともにシルフィスの魔杖の魔力が更に炸裂するのを感じる。
もう時間はない。あと1秒でもあればマシなほどだ。
もはや考えてなど居られない。
ぐっと上体を少しでも起こすように胸のすぐ横で手のひらを地面にぐっと押しつけ、そしてそのまま魔力を込める。ありったけの魔力をつつみ込み…そして即座に解き放つ。
その途端、手から放たれたのは閃光…そして凄まじい熱。
ドゥッ!!ともはや風とは思えない、形ある物に弾き飛ばされたような衝撃波に、あなたも、その頭に足を置くシルフィスも術なく吹き飛ばされる。
衝撃は腕から肩まで…地面から起き上がろうとしても腕が全く動かないことに気がついた。
コートの袖から微かに見える自分の腕にはまるで雷のように自らが魔力を使った跡が酷い火傷として浮かび上がっている。
遅れてやってきたのは、血管の一本一本に沸騰した鉛を流し込まれたような激痛だった。
背中、腕にかけてひどい痛みでマトモに動けもしない。
そして一方、向こうは既に地面からよろつきながらも立ち上がり、魔杖をこちらに向ける。
こんな所で負けてなるものか…あなたは手をシルフィスに向けようとするが…駄目だ、動かない。
だが…諦めるわけには行かない。まだ何か策が…
足は動く。立ち上がり、奴に蹴りでも叩き込めたら…いや、無理だ。固定砲台と称される古代魔道士にこの体で肉薄し、攻撃を叩き込むなど現実的ではない。
…足は動く。足なら動くのだ。
感覚が鈍い、が仕方ない。
この行動をシルフィスは攻撃から逃れる為に藻掻いているだけだと考えていくれているらしい。
なら、よりそのイメージに固執してくれるように偽装しよう。背中の痛みに悶え、呻きながらも地面を這いずる。
しかしシルフィスは侮蔑の目を込め、そして魔杖を向けるのみ。
靴紐が解け、砂掻く力で靴が脱げる。
シルフィスの魔杖から魔力が迸るのを感じる。こちらに抵抗の術はないと考えてか、フルパワーだ。
だが、こちらとて迎え撃つ準備は整っている。
まるで怯え、逃げるような素振りで手を地についたまま足を上げた。
靴が脱げたことで先ほどよりずっと感覚は鋭い。
そしてシルフィスの魔杖から巨大な火球が放たれる…瞬間、足から電撃魔法を放つ。
こんな扱いをしては魔法への冒涜、それはわかっている。だが、それでも勝たねばならない戦いがある。
火球を射抜く電撃、途端、魔力均衡を失ったその火球は術者の意思とは関係なく暴発し、ゼロ距離で爆破に巻き込まれた魔杖は砕け散る。
爆破に巻き込まれたシルフィスの腕は千切れかけ、かろうじて残った皮や肉でぶら下がり、もう使い物にはならなそうだ。
なら、奴が適応する前に…!
『砲身』が使い物にならなくなった固定砲台など敵ではない。
なんとか膝を立て、シルフィスにさらなる一撃を叩き込もうとする。
しかしその時だった。
シルフィスの背後からずずず……と影が盛り上がり、そこから純白の衣が寒風を伴って現れていく。

シルフィスの背後で月の輪のような瞳がこちらをまっすぐに見つめる。
途端に突きつけられる、死の気配。
明らかに手が届かない上位存在という確信。
そもそも…コイツが来たということは、ミスルトゥは…?
いや、まだ分からない。ミスルトゥが此奴を圧倒して、此奴が逃げてきたのかもしれない。
だが、奴の体に負傷は見られない。
嫌なイメージばかりが先行する。
それより、そもそもミスルトゥすら仕留められなかった悪魔相手に何秒生き延びられる?
静かに突きつけられる死を前に人間は思考を失う。
カーピは地下監獄の執務室に、先程までエルリウスと話していたナルキッソスを招いていた。
カーピの言葉にナルキッソスは俯き、黙り込む。
この者がエルリウスの事を尊重してくれるか分からなかったからだ。エルリウスはハルディンに楯突いた罪人である上に、人間ではない。
法で守られていない存在がどう扱われるかなどは想像に易い。
その言葉には反論も出来ずに俯くばかりだった。
そしてカーピが魔導通信機に声をかけよう魔力を送るが、そこから思いもよらずミスルトゥの声が聞こえる。
その言葉に沈黙が走る。一級魔道士ですら死ぬ可能性の高い状態、5級魔道士は1秒たりとも生き延びれるかも分からない。
ミスルトゥの声を聞き届けてからカーピは別の通信機へ繋ぐべく魔力を操っていく。あなたとは面識も無いが故に繋ぎづらい…が、仕方がない。あなたがまだ生きている可能性にかけてカーピは目を瞑り、より集中を高めていく。
その言葉にミスルトゥの通信機から特大のため息ばかりが返ってくる。
その言葉のあとすぐに通信は切られる。
そのまま夜道を駆けると、闇に煌めく鎌の反射が見えた気がした。行かなければ…ミスルトゥは更に足に力を込め、風を切り裂き、レニアリアの道を駆け抜けていった。
イザヤは慣れない大きな都市の中できょろきょろと周囲を見渡しながら歩き回る。
そして顔につけられた傷を触り、うんざりと言ったようでため息をついた。
こんな顔で暫く歩くのは気も乗らないし…ということでマネハールの元に戻って傷を治してもらおうと考えたのだが、歩く先に人影が見えた。
カチリ、とシモミの刀から音が発せられる。
鯉口を切り、その刀身が鞘から抜き放たれた。
無音、しかし構えを取るその動きは確実にその場にいる全てのものの目に鮮烈に釘打つ。
あまりに無駄がなく、美しい所作。
500年余り繰り返した、究極にまで研ぎ澄まされた軌跡。
イザヤの口角がにぃっ…と上がり、それだけに止まらず喉の奥でクックッと笑いが漏れる。
そして視線がぐるり…とエボニーの方に向く。
イザヤは勝ち誇った笑みのまま両手を広げる。
その瞬間、シモミが肉薄する。残像すら見えるほどの動き。予想よりずっと速い。
低い姿勢から、下から上へと振り上げるような斬撃が迫る。
斬撃は間違いなく顎の下、首を狙っている。
その場所に集中し、そして一気に反射。
そこから弾かれた空気が凄まじい暴風となってシモミに吹き荒れる…が。
斬撃のタイミングをずらされた。
首の直ぐ側で刀は一瞬動きを留め、そして反射が終わったタイミングで再び振るわれる。
振り被るパワーを一度殺しているが故に威力はそんなに無い…が、よく研がれた刀はイザヤの皮膚を容易く切り裂いた。
更に連撃を避けるために身軽に後ろに飛び退くが、その時には別方向から攻撃が迫ってきていた。
砂煙を上げ、まるで猛牛のような勢いでエボニーが迫る。そしてイザヤを前にして高く飛び上がると、その靴底をイザヤの顔面に叩き込もうとするが…
数多の戦闘で培ったセンスで反射的に攻撃をフルパワーで弾き、吹き飛ばす。
この威力でぶつかってくれば、下半身丸々弾け飛んでもおかしくない。
無意識下でこの天使はもはや殺したも同然だと考えていた。ドガガガッ!!と近くの家の塀が砕け、そこから黒い翼だけが見える。
刹那、シモミから振るわれる剣をギリギリで避け、体そのものを弾き飛ばしてやろうと手を払う…が、その行動は始めから予見されていたように最低限の動きのみで避けられた。
ガラガラ…と塀が崩れた瓦礫の山からエボニーがゆらり…と立ち上がる。
普通なら足は粉々で原型すら残さない程の勢いで吹き飛ばした。なのに平然と立っている。骨すら折れていないのか?そもそも、あの速度で塀に衝突しておいて擦り傷の一つすらない。
エボニーの光のない目がイザヤを再び捕らえる。
一蹴りでイザヤとの距離を詰め、そしてイザヤの腹に向かって拳を突き出す…が、それもまたイザヤは能力で弾き飛ばした。
しかし、エボニーの体はついに吹き飛ばなかった。
拳に向けられた莫大な圧力はエボニーの体勢を確かに崩した。しかしエボニーは吹き飛ばされないよう腰を落とし、その衝撃を肩だけでいなす。
隙はあった。しかしイザヤはそれ以上に慄き、次の魔法が間に合わない。
そして放たれる拳。1度きりではない。軍隊から放たれる矢の雨のように、スリメラジの大陸を震わす雪崩のように。
かろうじて全て魔力で防ぐが魔力の消費が激しい。
故に今までのように派手に相手を吹き飛ばすことはできない。まるで殻にこもるかのように、弱い反射でこの拳が体を穿たないように反発させる事しかできない。
加速していく攻撃、そのくせ威力はどんどん増していく。
まさか、この堕天使も完全に攻撃特化だったとは。
それよりだ、圧倒できるはずの物理攻撃を行う相手を前に自分がこれ程までに圧倒されるなど…。
突如、カチャン…と横から音がする。
そうだ、戦ってたのはこの堕天使1人じゃない。
弾かなければ!しかしそちらに目線をやる隙すらない連撃の嵐。
途端、肘から下の感覚が溶ける。
一陣の風が吹き抜け、イザヤには何が起きているか分からなかった。
ドサリ…と片腕が地面に落ちてようやく気がつく。
シモミの圧倒的な速度の接近、及び放たれた居合切りにより、反射の隙すら与えず、イザヤの腕が切り落とされた。
片腕を失い、動揺していた所に叩き込まれる痛恨の一撃。
その拳はイザヤの腹に深くめり込み、そしてそのままイザヤは成すすべも無く吹き飛ばされる。
体が宙へと吹き飛ばされ、ふと気づいた時には家々の屋根はイザヤの眼下に広がっていた。
視界に入るのはエボニーの振り落とされる踵落とし。
まさかこの一瞬でここまで翼を使って飛び上がってきたのか?いや、無理だ。翼をどれだけ早くはためかせてもこの高さに達するまではもう少しかかるはずだ。
だとしたら己の跳躍力だけで…?
踵落としが放たれる瞬間、ありったけの魔力で反射を行う。
まるで爆風のような反射とともに空中に飛ばされ踏ん張りもつかないイザヤの体はいとも簡単に吹き飛ばされ、地面に激しく打ち付けられて転がった。
もう全身ボロボロだが、見上げた空にエボニーが反射で大きく体勢を崩しながら地面に落ちていくのが見えた。
高価な服を泥だらけにして地面をずりずりと這い、そして近くの街路樹に背中を預けて座り込む。
こんなに厳しい戦いは初めてだ。しかし少なくとも敵は巻いた。ひどく疲れた、少し休もう…と目を瞑った瞬間だった。
イザヤの首に一閃が刻まれた。
カッ…という僅かな音…たったそれだけでイザヤの背後の木ごと両断された。
そして剣が再び鞘に収まる、キンッという鋭い音と共にイザヤの首が地面に落ちる。
シモミはそっと地面に落ちた首を拾い上げた。
…目論見通りではあった。
この戦闘に来る前、シモミは忠告を受けていたのだ。
イザヤの頭を拾い上げ、顔についた砂ぼこりを払う。
しかしその時だった。イザヤは口を大きく開いてシモミの指に噛みつこうとする。
これには流石にシモミも本気で驚き、イザヤの生首を地面に取り落としてしまった。
シモミは慌ててイザヤの首を拾い直し、しゃがんだままでじっとイザヤを見つめる。
その時遠くからエボニーが駆け足でこちらに戻ってきた。
やはり怪我一つなく、ただ相当不機嫌そうなようすでイザヤの首を抱えるシモミの元に歩み寄る。
当然のように文句を吐き捨てるイザヤの生首にエボニーは嫌悪の表情を浮かべる。
受け渡されても文句がやまない生首。
エボニーはため息をつきながら周囲を見渡し、近くの水路に頭をポイッと投げ捨てる。
イザヤの頭はゴボゴボとやまない文句とともに空気を吐き出しながら沈んでいってしまった。
頭上には月が煌々と輝いているのにエボニーの目に光は一切なく、ドス黒い闇が渦巻いていた。
シモミは水路に手を伸ばし、なんとかイザヤの髪を掴み上げ、引き上げる。
シモミはその言葉に頷き、通信機に魔力を込める。























編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!