校庭は、熱を孕んだ歓声に満ちていた。
クラスメイトたちの笑い声、スピーカーから流れる音楽、そして燃え上がるキャンプファイヤーの火。
まるで儀式みたいだよな、なんて、
ジェシーが冗談めかして言ってたのを思い出す。
その通りだ。
だけど、俺たちはそこにはいない。
屋上。
夜風が、ここだけ異世界のように静かだった。
柵の向こうに広がる校庭の灯りを背にして、
勿来は黙って夜空を見ていた。
その横顔に、俺はただ、言葉もなく並んだ。寄り添った。
「……星が、重なってる」
彼がぽつりと呟いた。
夜空を見上げると、
ほんの一瞬だけ、北斗七星とオリオン座が交差するような軌道を描いていた。
俺の記憶が疼く。
肌が熱を帯びる。
脳裏に焼きついたあの天文台の冷たい空気、そして、銀色の髪の彼の姿。
「ねぇ、北斗」
勿来がこちらを向いた。
その声は、まるで“前の名前”を知っているような響きだった。
「俺は、現世でも、君を愛してるみたい」
「……俺も」
声が震えた。
「夢の中で、君がいた。
星に還されそうになって、名前を呼ぶのに声が出なくて……それでも、君のことだけは忘れたくなかった」
永蓮の目に、光がにじんでいた。
「俺、ほんとはあのとき……星に戻るのが、怖かった。
君にキスしたのも、そうしないと……来世で君が俺を探せない気がして」
「でも、お前は忘れてなかった」
俺は震える手で、彼の首筋に触れた。
浴衣の襟のすぐ下に、確かにある――三つのほくろ。オリオンの星。
「今度こそ、離さない」
唇を噛みながらそう言った。
声にすると涙が止まらなかった。
永蓮も、黙って俺の右口元に手を伸ばした。
指先が触れる場所、前世で、最初に交わした記憶のキスの場所。
「俺も。今度こそ、君の隣にいたい」
ふたり、同時に目を閉じた。
触れた唇の温度に、
記憶が、未来が、何もかもが溶けていく気がした。
屋上の空には、またひとつ、
誰も知らない小さな星が、ひっそりと瞬いた。
そしてその星は、
ふたりの間で新たに生まれた“誓い”を、静かに記録した。
この世界で、
今度こそふたりが結ばれる物語の始まりとして。
第一章 Fin.
To be continued…












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!