その時は、委員会があった翌日の昼休みにやって来た。
これは完全な当てつけだけど、なんでみんなが色んな教室に散っていていない人もいる昼休みの時間帯に返却するんだ??
朝のホームルームのうちに返してくれれば、
その分追々試までに勉強できる猶予も増えるのに。
なんて心の中で悪態をつきながら自分のテストをもらうために、なんとなくできている列に並ぶ。
先生から答案用紙を受け取り、まだ開かずにそのままお昼を食べていた席に戻る。
一緒にお昼ご飯を食べていた青奈ちゃんが心配そうに、すこし合格を期待したような面持ちで聞いてきた。
なんと、追々試を回避するために、たった2点が足りなかったのだ。
20点とか、圧倒的に合格点に届いていなかったらまだ諦めがついた。
まさかたったの2点に泣くことになるだなんて……
追々試以降はもうこの試験を引き摺ることはないらしいけど、
ここでまたコケて低い点数を取ったら補習とかで声が掛かりそう。
放課後までにもう一度、昨日さとみ先輩に教えてもらったところを復習しておこう。
* * * * *
閑静な教室にタイマーの規則的な音が鳴り響く。
日が沈みかけた頃、私はようやく追々試を終えた。
追々試まで試験を受けたのは5人程度しかいなくて、
教室に入った時は絶望しかけた。
いよいよ自分の成績の低さに焦りを覚えてくる。
来年は受験生だし、本当になんとかしないとまずい。
先生が回答用紙を回収しにまわる。
さとみ先輩のおかげで追試の時よりもかなり答えを埋められた気がする。
迅速に荷物を片付けて教室を出た。
なんだか今日は、精神的にも肉体的にも疲れた。早く帰って寝よう。
校門を出たところで、見覚えのある人影を見つける。
……さとみ先輩だ。
先輩のおかげでこの前の追試よりも解けたことのお礼を伝えるチャンスだろうか?
でもそんなに親しい間柄でもないのに急に話しかけられても迷惑だろうし……
脳内で考えを巡らせながら、結局話しかけることができずに、
一定の距離を保ちながら歩く。
信号に差し掛かった時、さとみ先輩がこちら側を見て目が合って、一瞬焦りつつ、軽く会釈をした。
向こうも私だと気が付いてくれたようで、軽く右手を挙げる。
信号が青になってもなお立ち止まっている先輩に、鼓動が速くなるのを感じた。
…あれって、私を待ってくれているってことだよね、ずっとこっちを見ているし。
まあたしかに理論的には先輩の言うことは何も間違っていないと思う。
でも、
私なんかの成績で喜んでくれるだなんて…
生徒同士だから先生よりも距離が近いのは至極当然だけど、先生よりも親身になってくれるから少し感動する。
すこし人のプライバシーに踏み込みすぎだろうか、と言ってしまってから少しだけ後悔した。
所属する部活くらいならまだ日常会話の範疇だろうか?
自分の周りの人はほとんど部活に所属していないからこういう会話には慣れてなくてわからない。
1年前、中学から続けていたバドミントン部に入部したけれど、
体育館に入って顔を合わせた瞬間に分かった。
そこにいたのは、明らかに私とは住んでいる世界が違うような女の子たち。
同じクラスにいたら、確実に違うグループで過ごしているような、私とは全くちがうキラキラした女の子たち。
最初のうちは、3年もあるのだから仲良くなれるだろうと思っていたけれど、私と同級生の会話はいつも何処かぎこちなくて、距離感があった。
類は友を呼ぶてきな理屈なのか、先輩方も同じような雰囲気の人ばかりで、うまく距離を縮められず、
また別の場所でコミュニティをつくろうと、早めに諦めて退部してしまった。
3週間しかいなかったし、男子と女子は基本的に活動が別の部活だったから、当たり前にさとみ先輩のことは覚えていない。
向こうが私のことを見たことがあったのか否かは定かではないけれど、そもそも図書委員で会った時が初対面だと思っていた。
もうあまり記憶ないですけど、なんて軽く笑いながら付け足す。
青奈ちゃんと一緒になれなかったことを未だに恨んでいると思われそうで不安だったけど、
さとみ先輩はきっとそこまで細かい事情を知らないだろうし、
このくらいなら大丈夫だろうかと思って思い切って聞いてみた。
一向に先輩から返事が返ってこず、隣を歩く先輩の顔を覗き込んでみると、なんだか驚いたような、意表を突かれたような表情をしていた。
聞いてはいけないことだっただろうか、と思い謝ろうとしたところで先輩が口を開く。
そんな合理的な理由があったのかと、思わず目を丸くした。
私は出席していないから誰が委員長なのかすら知らないけれど、きっと気が利くいい人なんだろう。
先輩と同じ電車じゃなくて内心ほっとした。
電車まで同じだと正直心臓がもたない。
ただでさえまともに話せているかわからないのに……。
先輩に会えることが嬉しい反面、どうしてもどこか緊張してしまう。
にしても走るの速かったな、なんて思いながら、1番線のホームで電車を待った。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!