思わず溢れた口調を飲み込んで、どうにか敬語でそう返す。家の者が居なくて良かった。少し遅れて思う。
家の次期当主、なんて偉いお方に使用人見習いレベルの底辺の扱いを受けている私がタメ口を叩いた暁には、冗談でも無く首が飛ぶ。
それくらい意外だった。名前を、本来は大事だからこそ与えられるはずだけど、私には無用の長物なそれを。彼が知ってるだなんて思わなかったから。
馬鹿にするような、そもそも興味なんてないような、そんな顔で言うお兄ちゃんに気後れして、着物に仕舞った紙風船を手で隠しながら、辿々しく返す。
取るにとらないガラクタに執着する子供の心理を理解できないと言うような、そんな冷たい瞳だった。
じゃないと、上の奴らは良い顔しないから。
がめついがめついって五月蝿いんだよね、本当に。
テストの点が少し悪かったことを嘆くみたいな、本当になんてことないような口調でお兄ちゃんは言った。
それだけだった。だからその態度こそが、何よりも物語っていた。お兄ちゃんの扱いを。幸福な毎日を。
それは驚愕の感情もかなり帯びていたと思うけれど、それだけじゃなかったんだと思う。
確かな怒りが篭っていて、計り知れない激怒が有る。そのはずなのに、どこか他人事のようでも有って。
理解してしまった。この格差を。
貴方は気づいてはくれないんだね。私の着ている粗末な着物が、使用人の物にしても粗悪品だってこと。
もちろんお兄ちゃんはうちの中でも実質的には最高権力者なわけだから、物の品質が担保されているのは当たり前で、他者より高級品だったんだろうけれど。
でも、それは自分以外の他者に対する関心の無さと自身の高水準な生活から起因する強者だからこその驕りで有り、傲慢さの現れだった。
なのに、そんな彼に自分が強欲だと思われていると良い事実が、悔しくて悔しくて、堪らなかった。
その激情を抑えられないくらいに私は幼かったし、普段の性格の悪い言葉で返せるほど冷静でもなかった。
だから、気がつけば全てを彼にぶつけていたんだ。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。