……暗闇の中。どこかから声が聞こえる。何だろう、そう思うのに瞼が重くて眠くて、動くの億劫で目が開かない。そもそも、自分は何をしていたんだっけ。知らない場所に集められて、皆といきなり幽霊の正体を暴けって言われて……そうだ、ひなにいさんと一緒に理科室で探索していたら急に目の前が真っ暗なになったことに驚いて椅子から足を滑らせて……!一気に頭の中がクリアになる。と、同時に視界が晴れて、そこにいたのは青い顔をしたひなにいさんだった。どうしたんですか、と声をかけようとして気が付く―――声が出ない、いや、身体が動かない?
ひなにいさんは硬い表情でそんなことを言ってくる。……どういうこと?唐突すぎる話についていけないと思っていると、全く動かなかった口が勝手に言葉を生み出し始めた。
聞こえた声は間違いなく自分のもので。思わず口を押さえようとして、それすら出来なくて。混乱する頭の中に再び自分以外の自分の声が響き渡った。
ドクン、と心臓が鼓動する。……いる、ナニカが。自分の中に。
勝手に動く口。それはメテヲさんを疑う言葉を生み出していく。
そう思うと、また自分じゃない自分の声が頭の中に響いてくる。
自分の中にいるナニカはせせら笑うように言う。……確かに、ずっと疑念があって。その不安を相談したくて。でも、こんな形でひなにいさんに伝えるつもりはなかったのに!
自分の動揺と呼応するように激しく叫ぶ。それは紛れもなく本音の一部でもあって、溢れる言葉に胸が苦しくなる。でも、ひなにいさんはそんな自分を優しく支え、言葉をくれた。それに少しだけ心が落ち着く。すると、少しだけナニカの動きをおさえることができた感覚があった。それはナニカも感じたらしい。一旦落ち着きを取り戻したかのように振舞う。
微妙に成り立たない会話が繰り返される。……そんな理由で、ひなにいさんに言ったのか。だけど、それが分かったところでどうすることもできず、おれの身体を使ってナニカはひなにいさんと一緒に行動を続けた。
そして、結局完全に身体の主導権を取り戻すことはできないまま、ナニカは呪いの鏡を見つけてしまって。読み取った効果のうち、わざと代償だけを伝えないでメリットだけを教えて、ひなにいさんが使ったタイミングで正体を明かして……
鈴が鳴るように高い声が飛び込んでくる。同時に身体の感覚が戻ってきた。ぼやけていた視界が晴れ、目の前には青が揺れる―――ウパさんだ。
久しぶりに自分の意志で声を出した気がする。その声に、ウパさんはほっとした様に体の力を抜いた。
もみくちゃになりながらなだれ込むように車内に飛び込んだオレたち。まず最初にしたのは、様子のおかしいレイマリに注射器を打ち込むことだった。……しばらくすると、焦点のあった瞳とはっきりとした声で反応が返ってきた。
戸惑いを隠せないレイマリにメテヲが声をかける。レイマリはビクりと肩を震わせ、メテヲの方をみた。
そう問いかけると、レイマリはサッと顔を青くする。そしてぽつぽつと話し出した。
そう言ってレイマリは震えながら体育座りになって縮こまっている。その両手で掴まれた服は力を込めすぎてしわくちゃになってしまっていた。
レイマリは何かを言いかけて、でもそのまま止めてしまう。……今はどんな情報でも欲しい。焦りから思わず語気が強くなってしまった。そんな自分を遮ったのは、メテヲの言葉だった。
はっきりとした声。反射的にふたりそろってそちらへ視線を向ける。……いつの間にか落ち着きを取り戻したメテヲさんは、真剣な表情でたっていたこちらを見ていた。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!