足元に見えていた明かりが、遠ざかっていく。耳に残る高い声も同様にフェードアウトしていって、聞こえなくなった。残ったのは真っ暗な穴だけ。自分と同じように覗き込んでいたメテヲさんがパっと顔をあげる。その勢いで、垂れ下がった三つ編みが舞い上がる。……あ、せっかく編んであげたのに、解れてきてしまったな。
そんなことに思考を飛ばしていたら、メテヲさんからの言葉に反応が遅れた。慌てて誤魔化すと、少し訝し気な顔をしたメテヲさんは眉間のしわを深めた。
言いながら立ち上がるメテヲさん。繋がれた手がその流れを受け、一緒になって自分もっ地上がる。そのままぐいぐいと彼はこちらを引っ張って歩き出した。……玄関の方へ。
廊下に大きく開いた穴を避け、探索する。といっても、あまりあちこちに行くのも怖いので、最初は入り口近くの部屋に入ってみた。残念ながら電気はつかなかったので、頼りになるのは自分の頭についているヘッドライトだけだ。
U字型のテーブルは、受付だろうか。ペン置きとノートが開かれた状態である。古ぼけたそれ等は、残念ながら本来の用途では使えそうにない。その横には、薄汚れた銀色。軽く上から押すと、部屋の中に甲高い鈴の音が響いた。
きょろきょろと周囲を確認する。とりあえず、大丈夫そうだ。かつて患者の家族が面会待ちで使っていたであろう待合室は、自分たちだけしかおらず、静けさに包まれている。ささくれだったソファ、割れた窓の残骸が散らばる床。人が使わなくなった建物はあっという間に朽ちていくらしい。ここも、同じなんだろうと思った。
そう言いつつも何があるかな~なんてのんきな声をだして周囲を見て回っているメテヲさん。先のやらかしもあって黙ってついていきながら、光源兼手足代わりに動く。だけど……
受付周り、その後ろの背の高い棚、そしてソファの隙間……隅々まで見て回ったけれど、残念ながらこの部屋には特に目ぼしいものはなかった。まあ、普通の病院と違って面会の人が待つくらいでしか使われないからか、あまり広くもなかったし仕方ないだろう。メテヲさんは自分の言葉にツンと唇を尖らせる。かと思うと近くのソファにどかんと座り込んでしまう。
言いながらくいくいと袖を引っ張ってくる。動く気がなさそうなメテヲさんを見て、これは聞いてくれないなと思い、諦めてその力に身を任せる。どすん、と一人分の人間の重さと勢いを吸った背もたれのないソファは、ギシリと嫌な音を立てた。
メテヲさんはそこまで言ってじ、とこちらを見つめてくる。蜂蜜のように濃い瞳から送られる視線が痛くて、思わず目をそらした。
どうやら、ただ心配してくれていただけらしい。となると、休憩というのもこちらを気にしてのことか。……何やかんや優しいし周りを見てるんだよな、この人。そうだ、ドタバタで忘れかけていたけれど、メテヲさんに聞きたいことがあったことを思い出した。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!