※使った資料等
鬼滅の刃ノベライズ~きょうだいのきずなと鬼殺隊編~参考
P.S今回は霊夢は出ません。途中から出てきますのであらかじめご了承ください。
竈門炭治郎side.
(勝った……勝った……父さんが助けてくれた……)
地面から身を起こすことも出来ないまま、竈門炭治郎はあたりを見まわそうとする。
(視界がせばまる……目が見えづらいぞ……呼吸を……乱発しすぎたせいか?)
家に代々伝わる神楽でなぜ技をだせたのかわからない。でも、それで助かった。
耳鳴りがひどい。身体中に激痛が走る。でも。
(はやく回復しなければ……俺は、まだ戦わなければならない)
伊之助を助けにいかなければ。約束したんだから。
(禰豆子、どこだ……禰豆子)
かすむ視界のすみに、あおむけにたおれている禰豆子が見えた。炭治郎は必死にはいずりながら妹に近づこうとする。
その──とき
ぞわっ……と鳥肌がたった。なにかがうしろで動く気配。
血のにおいが濃くなった。
(まさか──死んでないのか?頸を斬ったのに……?鬼が消えていくときの、灰のようなにおいがしない──……)
もう振り替える力ものこっていない。だが、見なくともわかる。
うしろにころがっていたはずの鬼の体がたちあがって──こちらに歩いてくる。
あの鬼の声がした。
目のはしで、鬼の頭が宙にうくのが見えた。ギュルギュルと糸でつりあげられ、体のところへもどっていく。
鬼は、太陽の力を封じた特殊な刀───日輪刀で頸を斬らなければ殺せない。鬼が自分で斬ったのなら意味がないのだ。
体がまるで泥のように重い。たてない。
(たて、はやくたて!!呼吸をととのえろ、急げ、はやく!!)
頸をつなげながら、累はビキビキと牙を鳴らす。
(力が入らないのは未熟な証拠だ。正しい呼吸なら、どんなに疲弊していても関係ない───急げ、急げ!!)
だめだ。腕があがらない。折れた刀を持ち上げるどころか、柄をにぎっているだけで精一杯だ。
累の腕がたくみに動き、編みあげられた糸が大きなカゴになって炭治郎におおいかぶさった。
(焦るな!息を乱すな!おちつけ!!おちつけ!!)
だめだ。やはり動けない。カゴはみるみるちぢまっていく。この糸にふれたら、網目の形に切り刻まれて終わる───......。
(───!!)
そのとき。
一瞬で、カゴが切り裂かれた。糸がばらけてちりぢりになる。
かすむ目に、飛びこんできた人影が映った。
(だれかきた......だれだ......? 善逸か?)
目をこらす。やはりよく見えない。
その声。炭治郎は目をみはる。
月の明かりに、見覚えのある羽織がひらめいた。
右半身はえび茶、左半身は黄と緑の亀甲模様の、片身替わりの羽織。
(冨岡さん───...!)
二年前、自分と禰豆子を救ってくれた剣士───冨岡義勇。
累は歯ぎしりをし、血の色をした指先から糸をつむぎだす。
真っ赤な糸が無数にからみあい、檻のようになって義勇におそいかかった。
義勇は微動だにしない。だが───投げかけられた累の糸は、すべてはらはらと力を失い、一本たりともとどかなかった。
累はなにが起きたのかわからず凍りつく。その一瞬のあいだに、義勇は音もなく累のかたわらに歩みよると、すれちがいざまに剣をふった。
累の頸がふたたび地におちる。
〈凪〉とは、無風状態の海のこと。
義勇の間合いにはいった敵の術はすべて凪ぐ。無になる。
炭治郎も師事した鱗滝の水の呼吸の型は拾(十)まで───拾壱ノ型は、義勇が編みだした義勇だけの技だ。
もう今度は頸をつなぐことはできない。
日輪刀で斬られた頸は、もうもどらない。
地におちながら、累は歯がみする。せめてあの兄妹はかならず殺す───!
「!?」
その目にはいってきたのは、ようやく禰豆子のところまではい寄った炭治郎が、妹を守るようにおおいかぶさっている姿だった。
『累は───なにがしたいの?』
あれは───たしか、母親役をさせた小鬼が、いつだったか、泣きながらたずねてきた言葉。
そのとき累はこたえられなかった。なぜこんなに、"家族"にこだわるのか、自分でもわからなかった。人間だったころの記憶がないからだ。
(そうだ───俺は)
本物の家族のきずなにふれたら、記憶がもどると思った。
自分のほしいものがわかると思った。
(俺は───人間だったころの俺は)
体が弱い子どもだった。生まれつきだった。
走ったことがなかった。歩くのさえも苦しくて、ずっと家のなかで寝てばかりいた。
(無惨さまが現れるまでは)
『可哀想に───私が救ってあげよう』
そして累は鬼舞辻に血を与えられら鬼になった。強い体を手にいれた。
けれども、両親はよろこばなかった。鬼になった累は日の光にあたれず、人を喰わねばならないからだ。
累がはじめて人を喰った日、父親は累を殺そうとした。
母は泣くばかりで、殺されそうな自分をかばってもくれなかった。
(昔───すばらしい話を聞いた。川でおぼれた我が子を助けるために、死んだ親がいたそうだ)
なんという親の愛。そして家族のきずな。
川で死んだその親は、見事に、"親の役目"を果たしたのだ。
それなのに、なぜ、自分の親は、自分を殺そうとするのか。
きっと偽物だったのだ。この家族のきずなは本物ではなかった───そう思った。
父を殺し、母を殺した。月のきれいな夜だった。
けれども───苦しみ、死のうとしている母が最期に自分にかけた言葉は。
『じょうぶな体に産んであげられなくて───ごめんね......』
自分にむかって包丁をふりおろした父も、泣きながらさけんでいた。
『だいじょうぶだ、累。いっしょに死んでやるから』
殺されそうになった怒りで理解できなかった言葉だったが、父は、累が人を殺した罪をともに背負って死のうとしてくれていたのだと、その瞬間、とうとつに理解した。
でも、もうおそい。父も母も死んだ。自分が殺した。
(本物のきずなを、俺はあの夜、俺自身の手で切ってしまった)
『すべてはおまえを受けいれなかった親が悪いのだ。己の強さを誇れ』
(無惨さまはそう言って、俺をはげましてくださった───......)
実際、そう思うよりどうしようもなかった。
たとえ自分が悪いのだとわかっていても、いや、わかっていたからなおさら、自分のしてしまったことにたえられなくて。
毎日毎日、父と母が恋しくてたまらなかった。
偽りの家族をつくっても、むなしさはやまない。
結局自分が一番強いから、だれも守ってくれないし、かばえない。
強くなればなるほど、人間のころの記憶も消えていき、自分がなにをしたいのかわからなくなっていった。
(俺は───なにがしたかった?)
どうやっても、もう手にはいらないきずなをもとめて、必死に手をのばしてみたところで、けっしてとどきはしないのに......。
累の体だけが、最後の力をふりしぼってたちあがり、ふらふらと、炭治郎たちに近づく。
そこにあるのは、ずっとほしかった本物のきずな。本物の家族。
累がずっと憧れてやまなかったものだった。
折りかさなるようにたおれている兄妹に、しかしやはり手はとどかない。
累の体は、ついにたおれこんだ。
のばした手が灰になってくずれていく。
炭治郎が顔をあげ、それを痛ましそうに見た。
(小さな体から、かかえきれないほど大きな悲しみのにおいがする......)
こうして見ると、累の体は本当に子どものそれだった。ただおそろしい力を手にいれてしまっただけの、可哀想な子ども。
炭治郎は、そっと、その小さな背中に手をおいた。
その手のぬくもりは、もう死んでいこうとしている累にも感じられた。
温かい、日の光のようなやさしい手。
累は思いだした。はっきりと。
(僕は───あやまりたかったんだ。父さんと母さんに)
ごめんなさい。ぜんぶぜんぶ僕が悪かったんだ。どうかゆるして。
「でも───山ほど人を殺した僕は......地獄にいくよね......父さんと母さんと......同じところへはいけないよね......」
顔も体も、ついに灰になっていく。風に散っていく。
視界はもう暗くなり、そして真っ白になった。
どこかから、やさしい声がした。
『いっしょにいくよ。地獄でも』
懐かしい人の顔が見えた。ずっと忘れていたやさしい笑顔だった。
『父さんと母さんは、累と同じところへいくよ』
背中をさする手は父の手だった。
ああ───お父さん。お母さん。会いたかった。
『全部僕が悪かったよぅ。ごめんなさい』
小さな人間の子どもにもどって、累は泣いた。
母の胸に飛びこんだ。父の腕が累を抱きしめた。
『ごめんなさい、ごめんなさい......ごめんなさい......!』
抱きあいながら、親子は、逆巻く地獄の業火のなかに消えていった。
累の体は、ついに灰になって、はらはらと散っていった。
彼が着ていた蜘蛛の巣柄の着物だけが、炭治郎の手にのこされた。
歩みよってきた義勇が、その着物をふみつけて、炭治郎を見おろす。
炭治郎は顔をあげ、苦しい息の下から言いかえす。
助けてくれた義勇に、こんなことを言いたくはない。けれど、これはゆずれない炭治郎の強い思いだった。
足をどけてください、と炭治郎は義勇をにらみつけた。
義勇はおどろいたように、炭治郎と、それから禰豆子の顔を見た。
だが、彼がなにか言いかけたところで、いきなり邪魔がはいった。
ものすごい速さでだれかが飛びこんできたのだ。義勇に刀をはじかれて、その人はひらりと体をかわし、地面におりたつ。
それは、蝶の羽織を着た女の鬼殺隊士───胡蝶しのぶだった。
















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!