――その一言が。
こんなにも胸を締めつけるなんて、知らなかった。
朝
兵舎にはいつもの空気が戻っていた。
隊員の声に振り返ると、リヴァイがいつも通りの表情で
歩いてくる。
その姿を見た瞬間。
エレンは胸をなで下ろした。
自然と肩の力が抜ける。
その安心感に、自分でも少し笑ってしまう。
午前の訓練
リヴァイはアルミンの前で足を止めた。
アルミンは嬉しそうに笑う
その笑顔を見て、リヴァイは小さく頷いた。
それだけの、いつものやり取り。
それなのに
少し離れた場所で見ていたエレンの胸が、ぎゅっと締めつけられた。
苦しい。
理由が分からない。
アルミンが褒められるのは当然だ。
誰よりも努力していることを知っている。
だから嬉しいはずなのに。
どうして、
思わず拳を握る。
そう言い聞かせても、胸の痛みは消えなかった。
アルミンがパンを持って隣に座る。
嬉しそうな笑顔。
エレンも笑い返す。
その笑顔を見ていると、少しだけ胸が痛んだ。
なのに。
心の奥から、もう一つの声が聞こえる。
「その言葉は、俺が欲しかった」
エレンは息をのんだ。
頭を振る。
そんなことを思うはずがない。
アルミンは大切な仲間だ。
嫉妬なんてするわけがない。
笑ってごまかす。
けれど、自分の笑顔が少しだけぎこちないことに気づい
ていた。
夕方
訓練を終え、隊員たちが帰っていく。
エレンも荷物をまとめながら、一人考えていた。
どちらも本心だ。
それなのに。
胸の奥に残る黒い感情だけが、どうしても消えてくれない。
夜
廊下を歩いていると、向こうからアルミンがやって来た。
アルミンは照れくさそうに笑う。
そう言って手を振り、自室へ戻っていく。
エレンはその後ろ姿を見送った。
静かな廊下。
一人になった瞬間。
笑顔が、ゆっくりと消えた。
小さく呟く
壁に手をつく。
胸が苦しい。
苦しくて、息が詰まる。
目を閉じる。
浮かぶのは、さっきの光景。
『さっきの判断、悪くなかった。』
兵長の声。
嬉しそうに笑うアルミン。
その言葉が、何度も何度も頭の中で繰り返される。
そして。
心の奥から、静かな声が聞こえた。
「その言葉は、俺に向けてほしかった。」
エレンは目を見開く。
否定したかった。
でも、できなかった。
その感情は。
もう、確かに自分の中に存在していた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!