酒瓶を抱えてインターホンを押すと、清明が出てきた
朝と違ってスーツのジャケットは脱ぎ、シャツを腕まくりしている
重い酒瓶を受け取ると、清明は柔らかな表情で目を細めた
清明が真顔で言ったので、吹き出してしまった
微笑だけで返すと、清明は背を向けた
上がれ、と言っているらしい
緊張しつつ靴を脱ぎ、板の間に上がる
相変わらず、天体望遠鏡が存在感を発揮している
襖を開け清明が入っていったのは、畳敷きの部屋だった
座卓に和紙が広げられ、絵の具を溶いた皿や筆が置かれている
清明は、戸棚を開けて紙の箱や金属の缶を取り出している
仕上がり間近らしい日本画を見つめる
赤い顔にひげを生やし、冠をかぶった男性が大きな椅子に座っている
その足元に、黒い平安装束の男性がひざまずいている
彼らのそばで火炎を背負って座っているのは、おそらく不動明王だ
手前には丸い大きな鏡が立てられ、その周囲には鬼と、縛られた人間の男女がいる
戸棚から出した箱や缶を、清明は座卓の隅に積んだ
清明は紙箱と金属の缶をそれぞれ開けると、個包装されたクッキーや干菓子を紙袋み入れて手渡してきた
清明は、少しためらうような間をおいて口を開いた
聞き慣れない言葉に、わたしは戸惑った
京都に遊びに来ていた時には気づかなかった情報だ
真顔で言う清明を見て、可笑しくなった
清明の顔に、笑いがひらめいてすぐに消えた
わたしは日本画に目を落とした
赤い顔の閻魔大王にひざまずいている、黒い平安装束の男性をもう一度注視する
再び笑った時、今朝の夢を思い出した
直感で口から飛び出しかけた、あの言葉を
清明の目が、軽く見開かれる
子供が珍しいおもちゃを目にしたような、驚きと明るさをともなったその顔を、いいな、と思ってしまった
その言葉に、ああやっぱりあの夢は、と思う
清明は、答えずにただ微笑した
清明は、座卓の上の日本画を指差した













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!