吹く風に青葉の香りと、桜の花弁が混じる
ペダルを漕ぐ足が軽い
わたしは家のそばに通っている白川通を南へ走り
ガソリンスタンドの角で右折した
標識に「丸太町通」とあって、何かいわれのありそうな名前だ、と思う
窓の大きな喫茶店で、ベストを着た店員がサイフォンでコーヒーを淹れている
神社の鳥居脇には桜が咲いて、ずらりと並ぶ提灯には可愛らしい白うさぎが描かれている
岡崎神社、というらしい
アンティークショップの店先には、ちょうど戸棚や椅子が並べられているところだ
新しいものと古いものが共存している丸太町通の空気は、たちまちわたしをとりこにした
引っ越す前、親友に「京都人にいけずされないように」と心配されたけど
この街はきっと「いけず」ではない
強く望めば、そして礼儀を忘れなければ受け容れてくれるような懐の深さを感じだ
実際、張り紙を張らせてくれた喫茶店や雑貨屋は、どこも飼い猫の早い帰還を喜んでくれた
わたしがポチ袋に入れた薄謝を出すと、ことごとくやんわりと断られた
店主たちに言われて、わたしは安心した
それなら恩も返せるし、この街の人々に歓迎されている感じがした
さらに西へと自転車を走らせ、右折して北へ向かう
高校の前では、桜が満開だった
後者の窓が明るく輝くのがまぶしい
ーがんばろうね
志望校に無事合格した親友に、心の中で呼びかける
元気だ、と手紙を書こうかと思う
結局うやむやになってしまった隣人の正体だけは、気がかりで仕方ないのだけれど
昼の十二時過ぎに家へ帰ってくると
予想していたよりも大きな日本酒の瓶が台所のテーブルに置いてあった
お母さんは米をとぎながら、言葉を濁した
米をざるに上げて手を拭くと、お母さんはタブレット端末を棚から持ってきた
わたしは眉を寄せた
「猫虐待事件犯人か 動物愛護法で会社員を逮捕」と物騒な見出しだ
記事は短い
深夜にうろついていた男のバッグから複数の猫の鳴き声がしたため警官がひそかに後を追ったところ
ビニール袋に詰めた子猫数匹を物陰に廃棄したため現行犯逮捕した
また、自宅には十匹以上の猫がゲージに入れられており、どの猫も健康状態が悪く
怪我を負っているため男に詳しい事情を聞いているという
わたしは憤慨した
わき上がる不快感を抑えられない
お母さんも憤懣やるかたない様子で言う
不快感に加えて、背筋が寒くなってきた
お母さんは重々しそうにうなずいた
お母さんの気持ちを否定する気にはなれなかった
あのお札を受け取った時、なぜか安心して震えが止まったのを覚えている
足元にミオがすり寄ってきた
三毛の毛並みを撫でてやった










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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!