気がつくと、独り言が口をついて出ていた
清明が一方の眉を神経質そうに上げる
帽子の件はまだ質していないが、ミオのことを考えればそれどころではない
水色のリボンがついたベビー向けの帽子など、ありふれている
適当にいった冗談がたまたま当たっていただけに違いない
わたしは玄関を出てまっすぐ駆け抜け、門の格子戸を開けるのももどかしく
道路へ出てすぐ右に折れ、自宅の門を通って前庭に入った
両親の声は建物の向こう、つまり裏庭から聞こえてくる
お父さんが申し訳なさそうな顔で振り向いた
お母さんは大きな声でミオを呼び続けている
裏庭からは、台所の窓が見える
高い位置にあるそれは、十センチほど開いていた
お母さんがきつい表情で振り返る
お父さんが台所へ駆け込んでいく
わたしも弾かれるように前庭へ出た
不意に声をかけられて振り返った
低い生け垣の向こうに、清明が立っている
ありがたい申し出に思わず清明の目を直視した
髪と同じ、琥珀色の目が陰鬱そうにこちらを見返している
淡々としている清明の後ろで、玄関の引き戸がガラガラと音を立てて開く
出てきたのは、十歳ほどの少年だ
まるでどこかの私立小学校の制服のような、白いシャツとベージュのスラックスを身に着けている
わたしがそう聞くと、清明は答えずに少年を振り向いた
簡単な指示に少年はうなずくと、すぐに「ミオー!」と声を上げて呼んだ
裏庭の方から両親の「えっ」という声がする。予期せぬ助太刀に驚いたのだろう
清明に言われ、わたしは居間へと駆け込んだ
荷解き途中の段ボール箱から四角い写真立てをつかみ出して戻ってくると、「早いな」と感心する清明に見せた
清明の手には、なぜか筆と和紙があった
答えた後で、これって聞く必要あるのかな、と気づく
清明は筆で和紙に何か書きつけている
答えながだんだん不安になってきた
急いでミオを探したいのに、なぜそんなことを聞いてくるのだろう
清明が和紙をたたんだ時、お父さんが前庭へ出てきた
わたしは男の子を指さす
澄んだ声で「ミオー」と呼び続ける男の子を見て、お父さんは清明に頭を下げた
お父さんの言葉を、お母さんの悲鳴がさえぎった
青い顔をして、早足で歩いてくる
お父さんが心配げに走り寄り、お母さんはすがるようにその手を取った
お母さんは手を頬に当て、首を振る
信じたくない、とでも言うように
お父さんがうながした
足元で砂利が鳴る
自分の体が震えていることに気づいた















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!