第10話

8・清明さん、猫を助ける
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2026/01/28 01:01 更新
父親
父親
ミオーッ。帰ってこーい
母親
母親
ミオーッ
(なまえ)
あなた
(何、何があったの?
帰ってこいってことは、逃げちゃったの?)
(なまえ)
あなた
家の戸締り、したっけ……?
お父さんが窓を閉めるところを、見ただけだった…お父さんに任せっきりで
気がつくと、独り言が口をついて出ていた
清明が一方の眉を神経質そうに上げる
清明
清明
ミオとは、家の猫か
(なまえ)
あなた
はい…心配だから帰ります!失礼します!
帽子の件はまだただしていないが、ミオのことを考えればそれどころではない
水色のリボンがついたベビー向けの帽子など、ありふれている
適当にいった冗談がたまたま当たっていただけに違いない
わたしは玄関を出てまっすぐ駆け抜け、門の格子戸を開けるのももどかしく
道路へ出てすぐ右に折れ、自宅の門を通って前庭に入った

両親の声は建物の向こう、つまり裏庭から聞こえてくる
(なまえ)
あなた
ミオがどうしたの!
(なまえ)
あなた
お父さん、お母さん
父親
父親
あなたの下の名前
お父さんが申し訳なさそうな顔で振り向いた
お母さんは大きな声でミオを呼び続けている
父親
父親
すまん、あなたの下の名前
台所の窓から出たみたいだ
裏庭からは、台所の窓が見える
高い位置にあるそれは、十センチほど開いていた
(なまえ)
あなた
お父さん、あそこ開けっ放しにしてたの?
父親
父親
すまん
ミオはもう大きいから狭い場所は通れないと思って、五センチくらい開けて空気の入れ換えを…
(なまえ)
あなた
お父さん……
ミオは賢いから、前足で押して開けちゃったんじゃない?
お母さんがきつい表情で振り返る
母親
母親
今はとにかく、呼びながら探しや!
あなたの下の名前は敷地の外!
お父さんはキャットフード開けて、お皿何枚かに分けて持ってきて
父親
父親
わ、分かった、おびき寄せるんだな
お父さんが台所へ駆け込んでいく
わたしもはじかれるように前庭へ出た
(なまえ)
あなた
(まだそんな遠くへは行ってないはず、まわりをよく見なきゃ)
清明
清明
逃げたのか、猫が
(なまえ)
あなた
えっ
不意に声をかけられて振り返った
低い生け垣の向こうに、清明が立っている
清明
清明
どんな猫だ
(なまえ)
あなた
三毛猫で尻尾は長くて、目は茶色です!
見ませんでしたかっ?
清明
清明
見ていないが、一緒に探そう
(なまえ)
あなた
えっ
ありがたい申し出に思わず清明の目を直視した
髪と同じ、琥珀色の目が陰鬱そうにこちらを見返している
清明
清明
陰陽師だと言っただろう
淡々としている清明の後ろで、玄関の引き戸がガラガラと音を立てて開く
出てきたのは、十歳ほどの少年だ
まるでどこかの私立小学校の制服のような、白いシャツとベージュのスラックスを身に着けている
(なまえ)
あなた
(他にも人がいたの?全然物音がしなかったけど)
(なまえ)
あなた
親戚の子ですか?
わたしがそう聞くと、清明は答えずに少年を振り向いた
清明
清明
猫を呼べ。名前はミオ
簡単な指示に少年はうなずくと、すぐに「ミオー!」と声を上げて呼んだ
裏庭の方から両親の「えっ」という声がする。予期せぬ助太刀すけだちに驚いたのだろう
清明
清明
写真があると助かるが
清明に言われ、わたしは居間へと駆け込んだ
荷解き途中の段ボール箱から四角い写真立てをつかみ出して戻ってくると、「早いな」と感心する清明に見せた
(なまえ)
あなた
これ、ミオです
清明
清明
ああ
清明の手には、なぜか筆と和紙があった
清明
清明
猫の生まれた日は分かるか?
(なまえ)
あなた
一年前の四月十日です。ミオをもらったおうちから聞きました
答えた後で、これって聞く必要あるのかな、と気づく
清明は筆で和紙に何か書きつけている
清明
清明
よく食べていたものは?
(なまえ)
あなた
鶏のささみです
答えながだんだん不安になってきた
急いでミオを探したいのに、なぜそんなことを聞いてくるのだろう
清明
清明
今更だが、君の名前は
(なまえ)
あなた
あなたの下の名前です
清明
清明
よし
清明が和紙をたたんだ時、お父さんが前庭へ出てきた
(なまえ)
あなた
あ、お父さん
あの子がわけを聞いて、呼んでくれてるの
わたしは男の子を指さす
澄んだ声で「ミオー」と呼び続ける男の子を見て、お父さんは清明に頭を下げた
父親
父親
すみません
引っ越し早々、お騒がせして…
母親
母親
大変!
お父さんの言葉を、お母さんの悲鳴がさえぎった
青い顔をして、早足で歩いてくる
(なまえ)
あなた
どうしたの、お母さん!
父親
父親
足ふらついてるぞ、お母さん
お父さんが心配げに走り寄り、お母さんはすがるようにその手を取った
母親
母親
今さっき、ミオを呼んでたら、ご近所の方に話しかけられたんだけど…
お母さんは手を頬に当て、首を振る
信じたくない、とでも言うように
父親
父親
なんて言わたんだ?
お父さんがうながした
母親
母親
最近、猫が虐待される事件が、左京区や隣のきた区で続いてるって……
この間も刃物で傷つけられた野良猫が何匹も保護されたって…
足元で砂利が鳴る
自分の体が震えていることに気づいた

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