校舎に戻る途中、教頭先生に声をかけられた。
こうやって声をかけられることは少なくない。
「朝の朝礼で表彰があるから来てほしい」とか、
「この教材を運んで欲しい」などなど......。
先生に話しかけられることはよくあるが、教頭先生が
私に用事なんて初めてだ。
校長室へ続く廊下で、先生に説明される。
どうやら、私に話があってそのためにわざわざ
この学院にいらっしゃった方なのだと。
「正直追い出しても良かったけど、どことなく雰囲気が似ていたもんで」、教頭先生が笑い、私は考える。
私には別の学校の友達がいるわけじゃないし、親戚も
ほとんど知らない。自ら私に会おうとする人はかなり
限られている。いるとしたら私を捨てた母親、
その1人だけだ。勉強ばかりさせて、私から自由を
奪った癖に寮があるから、そんな理由でこの学院に
実の娘を捨てた。私の母親はそんな人だった。
この学院に来たくて来たわけじゃない。お金も人も
住む場所も何もかもない、ここから抜け出す方法は、
ないのだ。.....命を絶つことはしたくない。
ドアをノックすると、部屋のソファに座っていたのは
夕焼けみたいに綺麗な橙の髪色をした高校生くらいの
女の子だろうか?緑と赤の特徴的なオッドアイに、
オーバーサイズの白パーカー。真剣な場に合わない
ふわふわした雰囲気で、私は戸惑う。本来、人が纏う
空気感じゃない。温かく、それでいて芯のある。
圧倒的な差で私が負ける、彼女は強者だ。
そんな風に思わせるほどのオーラを持っていた。
まるで別の生き物が人間に擬態しているようだった。
「何で名前知ってんの、怖って顔してんねぇ」、
そんな風に笑われて私は余計に不信感が増していく。
その場にいた全員の表情が固まり、空気も凍りつく。
なぜって、作家の火葉さんは中身がどんな人で
どんなものが好きなのかすら、一切の情報がない。
謎に包まれた正体不明の存在だったから。
何万とファンのいる作家から、「大事な話がある」なんて言われたら、ちょっと緊張する。
私が了承すると初火さんは嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔を見て、私は目が離せなくなる。
目が眩むような眩しさ持ったその姿。顔を少しだけ
傾けた変わった笑い方。彼女の赤色の瞳に映る私が、
怪しく美しさを放つように見えた。その瞬間。
私は、分かってしまった。この人は……本当に、
すごい人なんだって。
先生に許可をもらい、授業を休むことになった。
中庭に移動し、完全に誰もいないことを確認すると、
初火さんは「これから言うことは他人に教えるな」と
前置きすると、話を始めた。
流石にファンタジー小説の読みすぎか、なんて笑うと
初火さんは驚いたような表情を見せた。
「まぁ半分正解...?w」と言いながら、彼女は
また説明を始めた。
目を見開くと初火さんは、小さくうなずいて見せた。
そして、続けて信じられない言葉を放った。
思えば、この言葉が私が変わっていく
きっかけ…だったのだろう ___ 。
















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!