「ねえねえ、知ってる?」
「なあに?」
「ずぅっと昔、ここの水神様に捧げられちゃった人がいるんだって」
「えぇー、可哀想!」
「遺体も見つからず、ある日を境に忽然と姿を消したらしいよ」
「死んじゃったのかなあ?」
「分からないけど、」
少女は声を潜める。
「今でも、ときどき見るんだって。石段の上に、白い影が立ってるの」
「やだ、怖い……」
「でもね」
「泣いてるみたいなんだって」
風が、すうっと抜けた。
その先にあるのは、子供は決して踏み入れてはならないとされる石の階段。
神々の領域へと続く、禁じられた場所。
昔、そこに足をかけた少年がいた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!