第77話

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2026/01/13 13:08 更新
——SM side——








講義棟の掲示板に、学園祭のポスターが貼られ始めた頃






僕はようやく日常が戻ってきたんだと実感した









夏休みの間、時間は妙に伸びたり縮んだりしていた








予定のない日は考えなくていいことまで考えてしまう夜も多かった







だからキャンパスに人が戻り、誰かの話し声や足音が当たり前に聞こえるようになったことが、少しだけ救いだった











その中に、リノヒョンがいる









意識しないようにしても、視界の端が勝手に探してしまう









リノヒョンは前よりもよく笑うようになっていた





理由は分かっている






分かっているから、わざわざ考えないようにしている







学園祭の準備期間に入ると、サークル活動は一気に活発になった







軽音の練習も、放課後になると音が外まで漏れてくる







窓を開けた瞬間に聞こえるドラムの音が、少しだけ現実を引き戻す









その帰り道、中庭の方から流れてくる音楽に足が止まった










ダンス部が練習をしていた











体育館が使えないらしく、構内の人通りが多い場所で振りを確認している









理由なんて、どうでもよかった











見える場所で踊っている、それだけで十分だった











リノヒョンがいる。集中した横顔






息を整えながら、振りを確認する仕草   








誰かと視線を合わせて、軽く頷く






その誰かがヒョンジナだということも、今さら隠す必要はなかった 








胸の奥がきゅっと縮む









でもそれは痛みというより、静かな納得に近かった








ああ、そうなんだ











リノヒョンはもう、僕の知らない場所に立っているんだと










練習の合間、イエナがリノヒョンに近づいていくのが見えた









水を渡して、何か短く声をかける







リノヒョンは一瞬驚いた顔をしてから、柔らかく笑った








距離が近い。でも、不自然じゃない











イエナはそういう立ち位置の人間なんだ







誰に対しても壁がなくて、自然に懐に入る











それでもその光景を見ている自分に、少しだけ嫌気がさした  












嫉妬でも怒りでもない













ただ、もう僕が気にする理由はない








それを改めて突きつけられただけだ










リノヒョンは後輩に対して線を引いている



  



それは分かる。距離感がきちんとしている







だからこそ、その距離の外にいる自分の存在がやけに浮き彫りになる








練習が終わる頃、リノヒョンはヒョンジナの方へ歩いていった









自然な流れだった。誰も驚かないし、誰も止めない







それが今のリノヒョンの日常だ










僕は少し遅れてその場を離れた







音楽が止んだ後の空気が、妙に重たく感じられたから








歩きながら、もう大丈夫だと何度も思う







ちゃんと区切りはついている。終わったことは分かっている










それなのにふとした瞬間、リノヒョンの名前が頭をよぎる










学園祭が近づくにつれて、キャンパスの空気は浮き足立っていく








イエナは知っている






僕が誰を好きだったか










それでも距離を詰めていってるのは悪意じゃない








きっとタイミングだ。チャンスだと思っているんだろう








それを責める気はない






誰だって、自分の幸せを掴みにいく







ただその過程を見てしまう立場にいるのが、少しだけしんどい
















交わることのない視線と言葉にしない感情だけが、この準備期間に静かに積み重なっていく











まだ完全には消えていない。でも消そうとはしている










それだけで今は十分だと思うことにした

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