第3話

化粧室の幽霊少女
7
2025/09/28 06:15 更新
忘れ物を取りに教室へ向かう夏奈。

不気味な雰囲気漂う学校の様子に
不安になりつつも足を進める。
夏奈
夏奈
ふぅ……よしっ!
早く忘れ物取って帰ろう!
勇気を出して教室へ向かう夏奈。
教室に入ると、窓側に何かが蠢いているのが
見える。

近づいてよく見てみると、それは昼に
夏奈が世話をしていたヒマワリの植木鉢だった。

夏奈がほっとため息をつきながら植木鉢を
見つめていると、突然窓の外から
カサカサという音が聞こえてくる。

驚いた夏奈は窓の外を見つめる。

すると、大きな虫が這いまわっている姿が
見える。
夏奈
夏奈
うわあっ!!!
なに、あれ…!!!!
驚いて後ずさりする夏奈。

大きな虫が窓に張り付いている。

虫はバンバンと窓を叩きながら、
夏奈を威嚇するような声を出している。
夏奈
夏奈
こっち来ないで!!
何なのよ…!
恐怖に震える夏奈を見つめながら、
巨大な虫は相変わらず窓を叩き続けている。

そのとき、廊下の端から誰かが歩いてくる
音が聞こえる。

夏奈の友達の殊音だ。
殊音
殊音
夏奈!何があったの?
叫び声が聞こえたけど…
夏奈
夏奈
あ…殊音!助けて!
あそこの窓にデカい虫が…
殊音は夏奈の肩を掴んで落ち着くように言う。
殊音
殊音
虫なんて大したことないでしょ?
ただの殺虫剤でもかけたら死ぬよ。
夏奈
夏奈
はぁ…?あなた虫平気なの?
私無理なんだけど…
殊音
殊音
平気ってわけじゃないけど、
そんなに驚くほどでもないかな。
田舎に住んでたからかな、
虫はよく見たんだ。
夏奈
夏奈
ふーん、そうなのね……。
それで、この虫はどうするのよ?
殊音
殊音
虫退治用のスプレーでも
探してくるから、ちょっと
待っててくれる?
夏奈
夏奈
分かった。気を付けてね…
スプレーとか目に入ったら
危ないから。
殊音
殊音
心配しないで。
私だって虫退治くらい
したことあるんだから。
それに、うちの学校の備品倉庫に
そういうのがあるはずだよ。
しばらくして、スプレーを持ってきた殊音が
窓に近づいてくる。
虫は窓と窓の隙間をすり抜けて、
少しずつ夏奈に近づいてきている。
夏奈
夏奈
こっち来ないでって…………っ!
殊音は、慣れた手つきで虫に向かって
スプレーを噴射する。

すると、瞬く間に虫は力尽きて下に落っこちる。
殊音
殊音
はい、これで大丈夫だよ。
夏奈
夏奈
わぁ、すごい…ありがとう!
助かったよ〜
殊音
殊音
大したことないよ。
当たり前のことをしただけ。
その時、廊下の向こうから誰かが走ってくる
音が聞こえる。

夏奈のクラスメイトの夢華だ。
夢華
夢華
ねえ!2人とも!!
トイレの花子さんが出たって!!
夏奈
夏奈
えぇ…?花子さん?
そんなのいるわけ…
夢華
夢華
いや、いるんだって!
私が直接見たわけじゃないけど、
友達が見たって!
本当に怖かったんだって!!
夏奈
夏奈
はぁ…そうなの?
で、どこにいるの?
その花子さんって。
夢華
夢華
それが…トイレの個室の中に
立ってるらしいの。
でも、その姿がどんななのかは
分からないんだって。
友達は慌てて逃げ出したから…
悩ましげな表情で、殊音と顔を見合わせる夏奈。
夏奈
夏奈
うーん…見に行ってみる?
本当にいるかもしれないし…
殊音
殊音
い、いや……私はいいかな。
夏奈
夏奈
そうだった……殊音は
そういうの苦手だったね。
ごめんね!殊音。
殊音
殊音
謝らなくて大丈夫だよ。
気をつけてね……夏奈。
夏奈と夢華は一緒にトイレへ向かう。
用心深くトイレに入る2人。

個室を一つ一つ確認していく。
夏奈
夏奈
…いたらどーする?
ほんとにいたら。
夢華は緊張した様子で夏奈の服の裾を
つかんでいる。
夢華
夢華
……とりあえず驚かないように
準備はしておこう……。
夢華の緊張が移り、ゴクリと生唾を飲む夏奈。

一番奥の個室の前に立つ。
夏奈
夏奈
この奥が最後だね…
いないといいけど…
最後の個室のドアノブを掴んで開けようと
する夏奈。
そのとき、突然トイレの電気が消える。
夢華
夢華
え?なに?何?
暗っ…ちょっと!誰かいるの?
暗闇の中で、誰かがクスッと笑う声が聞こえる。
花子さん
花子さん
私、花子さん…
夏奈
夏奈
は……花子さん……?
暗闇の中からゆっくりと歩み寄り、
夏奈のすぐ前に立つ花子さん。
花子さん
花子さん
私は花子さん。
この学校のトイレに
住んでいるの。
夏奈
夏奈
と、トイレに住んでるの?
どうして?
花子さん
花子さん
昔、私はここで
いじめられていたの。
だから今もここに
縛られているのよ。
驚いた表情で、花子さんを見上げる夏奈。
夏奈
夏奈
そうだったんだ…かわいそう…
いじめは良くないよね。
花子さんは悲しい過去を回想するような目を
する。
花子さん
花子さん
ありがとう、
私の話を理解してくれて。
彼女の言葉が終わると、周囲が再び明るくなる。
そのとき、夢華が夏奈の腕を掴む。
夏奈
夏奈
夢華?どうしたの?
花子さんを見つめながら、震える声で話す夢華。
夢華
夢華
そ、その…花子さん?でしたっけ?
私たち、用事があるので
これで失礼します!
夏奈
夏奈
え?ちょ、ちょっと…夢華!
夢華は夏奈を連れてトイレを出ようとするが、
花子さんが彼女たちの前を遮る。
花子さん
花子さん
どこに行くの?
私の話、まだ
終わってないんだけど?
夢華
夢華
わ、私達急いでるから…
また今度話聞かせてね〜!
花子さん
花子さん
また今度って?
私がそうさせてくれると思う?
一歩ずつ近づいてくる花子さんを見て、
怯えた表情になる夢華。

小さな声で夏奈に話しかける。
夢華
夢華
やばいって…どうする?夏奈…
夢華の言葉に夏奈が答えようとした瞬間、
花子さんが先に口を開く。
花子さん
花子さん
さっきあなた、
私のことかわいそうだって
言ったよね?
夏奈
夏奈
そ、そうだけど…それが何か…?
花子さん
花子さん
私、嬉しかったの。
初めて私の話を
理解してくれた人が
できたみたいで。
花子さん
花子さん
私は本当に寂しいの。
長い間一人で過ごしてきたから。
だから…私と一緒にいてくれない?
夏奈
夏奈
えぇ…?私と一緒にいたいの?
花子さん。
花子さん
花子さん
うん、私はあなたが気に入ったの。
優しくて思いやりがあって。
それに…可愛いわ。
驚いた様子で目を見開き、夏奈を見つめる夢華。
夢華
夢華
か、可愛い!?夏奈が!?
夏奈
夏奈
…………ねぇ夢華?
それどういう意味?
夢華
夢華
いや、そういう
意味じゃなくて!
ただ花子さんの
言葉が変だなぁ……?
…………って!
不満気な表情で夢華を見る夏奈。

しかし、すぐに花子さんの方へ向き直る。
夏奈
夏奈
でも…私と一緒にいたら、
退屈だと思うよ?
花子さん
花子さん
退屈なんて感じないわ。
あなたといると楽しいもの。
それに…あなたを
守ってあげられるしね。
夏奈
夏奈
私を守るって…どうやって?
花子さん
花子さん
もちろん、私が側にいるだけで、
あなたを脅かす存在は
全部消えちゃうわよ。
夏奈
夏奈
でも、もし…私を傷つける人が
現れたら…花子さんは
その人をどうするの?
花子さんの目が冷たく光り、彼女は
断固とした声で答える。
花子さん
花子さん
あなたを傷つける奴なんて、
万死に値するわ。
そんな奴は私が殺してあげる。
ハッとした表情で花子さんを見つめ、
一歩後ずさる。
夏奈
夏奈
そ、そこまでしなくてもいいよ!
だって、それは殺人だよ?
犯罪だよ!?
花子さん
花子さん
でも、私はあなたの方が
もっと大切なの。
あなたが危険に晒されるなら、
法を破ってでもあなたを守るわ。
そもそも幽霊に法なんて関係ないし……。
夏奈
夏奈
わ、分かった!分かったから!
とりあえず、落ち着いて話そう?ね?
少し和らいだように、夏奈の肩から
手を離しながら言う花子さん。
花子さん
花子さん
そうね、まずは落ち着いて
話すのがいいと思うわ。
私も少し興奮しすぎていたみたい。
ごめんなさいね。
ホッと胸を撫で下ろしながら、夢華と
花子さんを交互に見る。
夏奈
夏奈
なんか…とんでもない状況に
巻き込まれちゃったなぁ…
夢華
夢華
ごめん、私のせいで
こんなことに巻き込まれて…
夏奈
夏奈
 違うよ、夢華のせいじゃない。
それに…こういう経験、
ちょっと面白いかも!
花子さん
花子さん
そう言ってくれてありがとう。
これからが楽しみね!
夏奈
夏奈
そ、そうだね…うん。
よろしく、花子さん!
花子さん
花子さん
こちらこそよろしく、夏奈!
私たち、良い友達になれると
思うわ!
夏奈
夏奈
私もそう思う!
ねぇ、友達になった記念に
写真撮らない?
夢華
夢華
しゃ、写真……!?
心霊写真とかになるんじゃないの?
花子さん
花子さん
大丈夫よ。
私たち、もう友達でしょ?
夏奈
夏奈
そうだよ夢華!
写真撮ろっ!
スマホを取り出して、夢華と花子さんに見せる。
夏奈
夏奈
3人一緒に入って!はい、チーズ!
その場には夏奈と夢華、そして花子さんがいる。

しかし、花子さんの姿は写真には映っていない。

代わりに、背景の空間が歪んでいる。
夢華
夢華
あれ?花子さんが写ってない……。
花子さんは写真を見下ろしながら
残念そうな声で言う。
花子さん
花子さん
私の姿は写らないのね…
夏奈
夏奈
 大丈夫!
花子さんの姿は見えなくても、
ちゃんといるってことは
分かるから!ね?
花子さん
花子さん
ありがとう、夏奈。
その言葉が慰めになるわ。
夏奈
夏奈
じゃあ、もう夜も遅いし、
そろそろ帰ろうか!
夢華
夢華
うん、帰ろう!
花子さん
花子さん
また会いましょう
夏奈!夢華。
夢華と花子さんと別れ、家に帰る夏奈。
夏奈
夏奈
…まさか学校に
幽霊がいるなんて…
しかも、その幽霊と
友達になっちゃうなんて…
夢にも思わなかったなぁ…
こうして、幽霊少女と出会った不思議な一日は、
午前零時の鐘と共に終わりを告げた。

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