俺には才能があった。
並の努力では、誰も追いつけないほどの。
だから、幽霊を怖がる妹を守れたし、今までこうして生き残ってきた。
少年時代の俺は、常に頼れる兄であった。
そしてその立ち位置を、失いたくなかった。
いつの間にか「今回も妹を守れてよかった」という安堵から、
「今回も妹が俺を頼ってくれてよかった」に変化していた。
今思えば、あの感情は紛れもなく承認欲求の塊であったし、
妹への依存のようなものであった。
彼女のおかげで、俺は自分のプライドと立場を守ることが出来たのだ。
もしそれがなかったら、俺は今頃妹に、酷い劣等感を抱いていたに違いない。
才能は確かにあった。
それは自他ともに認めることだった。
だが「呪いへの免疫」なんて能力では、到底一人で強い幽霊とは戦えない。
相手の技が効かなくても、こちらの技だって相手には効かないのだ。
それに気付いた日から、俺は祓い屋としての道を外れていた。
オカルトライターという、まあそこそこ免疫が活きそうな職に就いた。
妹は祓い屋になった。
ああ、今度は俺が守られる側なのかと思ったのを覚えている。
もちろん彼女は、俺を守るという意思があるから祓い屋になったわけではない。
それは分かっているけれど、
どうしてもヘラヘラした態度で誤魔化すしかなかった。
このささやかで理不尽な苛立ちを。
多分、それが女に向けられた。
俺が女を侍らせるのは、
「頼られる快感」を得るためだったのだと、最近思う。
またいつか、あいつには俺を頼ってほしい。
そう思っていた矢先、ある協力要請が入る。
馬を祓うのを手伝ってくれ、と。
チャンスだ、と思った。
だから手伝いに行った。
…その結果がこれだ。
馬鹿なことをした。
真っ暗で何も見えない。
声だけが聞こえる。
酷く寒い。
この能力を恨んだ。
あなた…俺の妹。
彼女は強かった。
こんな役立たずの俺に変わって、しっかりと馬を祓ったらしい。
今度は我々城に行くのだろう。
そう言っていた。
あなたとエミーリエは、静かな部屋に俺を置いて出て行ったらしい。
遅刻するとかなんとか、慌ただしかったのが聞こえた。
多分、そろそろ起きられるだろう。
起きたら今すぐにでも、妹を助けに行きたいところだが。
でも行くべきか…?
今までやったことと言えば、あなたを死ねなくしたくらいじゃないか?
それで特攻を出来なくして、勝率を下げた。
真っ暗な視界に光が差す。
目覚めだ。
目が覚めると、電気の消えた部屋で、ソファに寝かせられていた。
すごく腹が減っていた。
スマホを見ると、寝てから一週間近く経っていることに気がついた。
と、いうことは。
もう向こうで死んでるか、帰宅途中か、
もしくはあいつの時空だけ歪んでいるか。
よくあることだ、強すぎる霊気に満ちた所はそこだけ時空が歪む。
一瞬入っていただけのつもりでも、実際には一ヶ月近く経っていたり、
その逆も然り。
その歪みのせいで、いつの間にか呑まれる、なんてこともざらにある。
ぶつぶつと独り言を言いながら、考えた。
何にせよまずは腹ごしらえだ、とキッチンに立ってみる。
料理中も考え続け、結局、
そう言うと、俺はジャケットを羽織って家を出たのであった。
No side
あなたは混乱していた。
エミーリエは自分の思い通りにならないことにイライラしていたし、
その間にも悲鳴や怒号、爆発音が止むことはなかった。
幽霊の姿や、それらの起こした事件により、人の死体には見慣れていたが、
戦争となると話が違う。
混乱と同時に襲い来る恐怖。
慣れない音、光景。
エミーリエは静かに頷いた。
それが彼女の強がりだと分かっていたけど、暴くことは出来なかった。
強がって余裕を作らなきゃ、やってられない程の敵だから。
あなたは納得して、歩き始めた。
ここはもう、エミーリエに頼るしかない、と判断したのだろう。
城は、ここから戦場を跨いで行ったところにあるという。
無駄な体力を消費しないためにも、なるべく戦争と関わらぬように歩いた。
誰もいなさそうな森へ入って、警戒しつつも近づいて行く。
そこで、ふとエミーリエが声を上げる。
エミーリエはしばらく考えていたが、やがて思い出したと言って目を見開いた。
でも、とあなたは呟く。
エミーリエがそう言ったのを聞いて、彼女はハッと気がついた。
そういえば、私が死ぬと彼らが嫌がるんじゃなかったっけ、と。
シャオロンが成仏して、彼女を縛っておけるものはないのだから、死んだら困るはずだ。
そしてもし、ゾムが今ここに来ているなら、同じような理由があるはず、と考える。
エーミールを祓うと、何かしら不利益があるということだ。
そう、例えば、
だから一人にして、最悪ゾムが祓われても、エーミールは祓われない。
出られなくなるのは困るから。
そこにたどり着いたところで、二人はとある気配を感じ身を固めた。
気配はくっくっくと不気味に笑うと、木の上からぴょんと降りてきた。
無論、それはゾムであった。
両者に走る緊張。
楽になるには、まだ遠いらしいと、
ゾムは心の中で、呟いた。
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※お前のせいです
※…(閉口)











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。