果てのない旅に出たい______ずっとそう思っていた。
終わりのない、ただ今から行こうと思ったところに旅立って、楽しんで、飽きたら場所を変えるか戻る旅。
それは今が楽しくないとかそんなんじゃなくて、ただ…ただ興味があった。
誰も知らないところに行ってみたい、という好奇心のようなものに突き動かされて、僕はある日突然家を発った。
荷物はリュックサックに必要最低限だけ。スマホは置いてきたし、リビングにはメンバーへの伝言状も置いてきた。
僕の心は地図を広げる。
いつになく浮き立っていた。
これから始まる、全く未知の予想できない時間に。
思い思いの過ごし方でしんとしていた会議室に、まろちゃんの声が響く。
丁度僕も、少し心配してきて連絡を入れようかと思っていた所だった。
1コール目………2コール目………
その電話にいむくんが出ることは無かった。
僕はその場から走り出して、気づいたらいむくんちにいた。
合鍵を握りしめて、ゆっくりと音を立てて扉が開く。あまりの人気のなさに怖さを感じた。
そう声をかけながら全ての部屋を開けていく。
どの部屋にもいなかった。
もぬけの殻、なんて表現がこんなに似合う空間に来たのは初めてだ。
ふっと、視線が止まる。
いつも何も無いはずの机の上に、まるで誰かに読んでもらうためかのように紙が1枚。
“いれいすメンバーへ
ちょっと旅に行ってきます。そのうち戻ってくるから心配しないで。どこ行くかは知らない。またね!
ほとけ”
手の中の紙が、クシャッ……と音を立てた。
ここがどこかも分からない。体調はあまり優れない。とても暑いし快適なんて言葉とは遠く裏腹にいる。
でも気分は最高だった。
何も考えなくていい、僕は心ゆくままに、山の方へ向かってずっと歩いてきた。
途中で電車に乗ったりしたけど、それすらも移動ではなく娯楽の一部になっていた。
西へ、東へ。北へ、南へ。
心赴くままに足を運ぶ。普段の僕ではありえないくらい歩いたのに、まだまだ余裕で歩けそうな位だった。
知らない人たちと出会って、知らないことをして、知らない日々を過ごした。
楽しかった。
だから僕は終わらせようとしたんだ、楽しい記憶のまま。
もしかしたら最初からそのつもりだったのかもしれない。
ある夜、テントを張らずに、誰も知らないんじゃないかってくらい神秘的で小さな海岸の岩淵に腰掛けていた。
足をふらふらさせれば風が通るし、ざざっ……ざざっ……っと定期的で不定期な波の音は耳に心地いい。
今まで幾度も聞いてきた入眠ASMRなんかよりもよっぽど心地よかった。
こくり、こくりと首が揺れる。
遂には、
ガタンッ……と
身体が揺らめいた。
帰ってきたいむくんは幸せそうな顔をしていた。
満足するまで旅とやらを満喫したのだろう。
苦しげな息とうるさい機械とは、全く異なる表情をしていた。
僕の言葉はひとり寂しく空虚に放たれる。
もう、その眼を見ることはない。
その声を聞くことも、抱き合うこともできない。
微かな息の音とうるさい機械の音が、唯一いむくんが生きているとわかる証拠。
声は届いていると思います__________医者の言葉を信じて声をかけ続けて、6ヶ月目。
もう半年が過ぎた。
僕の相方は、目を覚まさない。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!