優は母親に「 自分より優秀な人としか仲良くしてはいけない 」という約束というなの言葉の押し付けをされていた。
でも、優はその約束を破ってしまった。
小3の頃、転校生としてやってきた雫に何度も何度も話しかけられて。
嬉しい気持ちを抑えながら、「 話しかけないで 」と伝えても話しかけられて。
だからなのだろうか。
いつからか優は「 仲良くしない 」なんて言う思考から、「 バレなければ大丈夫 」という思考に上書きされてしまい、雫と仲良くなっていた。
優は昔から手先が器用だった。だからよく紘太の髪をいじり遊んでいた。
しかし雫は、この時初めて優が紘太の髪をいじっている様子を見た。だからキラキラとした目で髪を結ぶのが上手いと褒める。それが嬉しかった優は、持っていたゴムを使って雫の髪を結び始めた。
雫は、優が結んでくれた髪型をとても気に入った。
いつもはただ髪を下ろしていただけなのに、髪を結んで貰っただけでこんなにも気分が変わる。それに気が付いた雫は、優に結んで貰った髪を鏡で見ながら、にっこりと微笑んだ。
雫の反応に、優も嬉しそうに笑う。
約束を破った罪悪感すら忘れてしまいそうなくらいに、優は雫との時間を楽しんでいた。
___でも。
日に日に、母の目は鋭いものに変わっていった。
何かを見透かしている。でも何も言わない。その事にこの時の優は何も気が付いていなかった。
___だから。
母が雫を殺した時、優は酷く後悔した。
仲良くさえしなければ、今も雫は生きていた。
でももう雫はいない。取り返しがつかない事になってしまったのだ。
勿論、紘太もその事に気が付いた。
そしてそれと同時に、優を止めなければならないという強い意志も持った。
だから彼は、珍しく根っからの強い視線で彼女の事を見つめて。
そう、彼女に伝えた。
口ごもる優を気にすることなく、紘太は冷たいような、でも確かに温かみを感じる言葉を優に向けた。
それを聞いた優は、プルプルと手を震わせて。
涙声になりながら、そんな本音を零した。
涙を流す優の頭にぽんと少し強めに、でも優しく手を乗せて紘太はそう言った。
その言葉に、優は更に涙を流し続ける。2人はそんな優を静かに見守り続けるのだった。
- 紘太の家 -
数十分後。3人は紘太の家へと戻ってきた。
赤くなっている優の目を見た紘太の母親は、真っ先に紘太が優の事を泣かせたのではないかと疑う。そしてそこに優衣の言葉の爆弾も投下されてしまう。
だから母親は自分の息子が友達を泣かせたと更に思い込んでしまう。でも、優はそれを笑顔で否定。その笑顔に嘘はないと気が付いた母親は、にっこりと微笑みを見せた。
紘太の質問に、優衣は笑顔で答えた。しかしその言葉に引っかかった優は、少し眉をピクリとさせながら優衣に少し違う質問をする。
その質問にも優衣は笑顔で答えた。そこから全てを察した優は、思わずため息を吐いてしまう。
優の反応が理解出来なかった紘太は、こてんと首を傾げながら優の事を見つめていた。
___ピンポーン
そこで、家のチャイムが鳴る。
その音を聞いた優衣は、笑顔で玄関の扉を開く。
「 ___帰るのが遅くなるなら連絡しろとあれほど言ったじゃないですか!!!! 」
そこにいたのは、紘太より少し背が低い青年の姿。童顔なのだろうか。幼く見えてしまう。
だが、家の近くには黒い車が止まっている。中に人がいる様子はない。恐らく車の運転手は彼なのだろう。
しかしそんなことなんて気にならないくらいに大きな情報が、頭を巡ってしまう。
紘太の反応を何となくわかっていた優はもう一度呆れたようにため息を吐いた後、2人の方へと視線を向ける。
そして優衣の家のことを紘太に説明した。それを聞いた紘太は、妙に納得してしまう。それも、優衣の性格をよくわかったからなのだろう。
ふと、何か思いついたかのように優衣は神奈の方から2人の方をくるりと向く。
1度こうなってしまえば、無理だとわかるまで優衣は止まらない。それを知っていた神奈は父親に許可を得るよう促した。しかしその後の結果も彼は見えている。
だから神奈は、少し絶望した表情を見せながら心の中でそう呟く。
そして、話が見えない2人は顔を見合せてコテンと首を傾げるのだった。
























編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!