次の日から、あなたの下の名前は体育館に来なくなった。
理由なんて、はっきりしていない。
ただ――あの視線が、あの言葉が、優しさが、怖くなった。
目黒くんの
「...言えよ」
という声が、頭から離れなかった。
言えなかった自分が、情けなくて。
言えなかったのに、気づかれてしまったことが、怖くて。
放課後、校舎の廊下を歩きながら、あなたの下の名前はスマホを何度も見た。
通知は、何件も溜まっている。
《今日来ないの?》
《無理してない?》
《返事だけでもちょーだい!》
Snow Manの名前が並ぶ画面を、そっと伏せる。
――返したら、またあの場所に引き戻される気がした。
体育館では、いつもより静かな練習が続いていた。
空気が、重くなる。
それが正しいとわかっていても、
全員が納得できているわけじゃなかった。
一方、あなたの下の名前は部屋のカーテンを閉めたまま、ベッドに座っていた。
胸が苦しい。
息が浅い。
でも、体育館に行く勇気は出なかった。
ぽつりとこぼした言葉は、
誰にも聞かれないまま消えていく。
あの9人は、9人で完成している。
私がいなくても、何も変わらない。
そう思おうとするのに、
心は勝手に否定してくる。
行きたい。
会いたい。
でも――怖い。
その夜、スマホが震えた。
表示された名前に、息が止まる。
《目黒 蓮》
しばらく画面を見つめて、
意を決して開いた。
《今日も来なかったな》
短い一文。
そのあと、少し間を置いて、次のメッセージ。
《無理に来いとは言わねぇ》
さらに数分後。
《でも、いなくなるのは違う》
心臓が、強く跳ねた。
指が震えて、文字が打てない。
しばらくして、最後の一文が届く。
《あなたの下の名前がいないと、俺は気になる》
涙が、ぽろっと落ちた。
そんなふうに言われる資格が、自分にあるのか。
でも、そんなふうに思ってくれる人がいることが、
苦しいくらい嬉しかった。
――それでも、返事は打てなかった。
翌日。
あなたの下の名前は体育館の前まで来ていた。
来ないって決めたはずなのに、
気づけばここに立っていた。
扉の向こうから聞こえる音楽。
懐かしくて、胸が締めつけられる。
そのときーー
振り向くと、そこにいたのは渡辺くんだった。
少し驚いた顔。
でも、すぐに真剣な目になる。
その一言に、あなたの下の名前の心が揺れた。
逃げているのは、自分でもわかっていた。
でも――
震える声で、そう答える。
渡辺くんは一歩近づいて、低い声で言った。
強い言い方なのに、
そこには突き放す冷たさはなかった。
あなたの下の名前は唇を噛みしめる。
――このままじゃ、だめだ。
でも、どうすればいいのか、まだわからない。
この章の終わりに、
あなたの下の名前の胸に残ったのは、ただ一つ。
「助けてって言えたら、どれだけ楽なんだろう」











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。