現在23:50
もう夏に入るが、夜は少し肌寒い。
薄手のカーディガンを抑えながら、私は夜の街を歩く。
もう2時間は経っているだろう。
深夜に未成年が外出してはいけないというのはもちろん知っている。
でも、そんなことを無視するくらい、私には重大な事が起こっている。
友達が___ついさっきまでいたはずの友達が、突然姿を消してしまった。
遡ること3時間前______
彼女は急に止まって、路地裏の方を見る。
何かに取り憑かれたように。
彼女は淡々と言った。
正直、私は分からなかった。
彼女は、たまにこういうとこが出てくる、少し変わってる子だ。
でも、今のあの子は、何かが違う。
私は息が詰まった。
月が、まるで血のように、紅く染まっている。
隣には誰もいなかった。
さっきまでいたあの子が、消えていた。
とても、似ていた。
最近流行りの、失踪事件に。
どれだけ歩いたのだろうか。
私は、いつのまにか公園にいた。
そこは、ブランコとベンチしかない公園だった。
私は、ベンチに腰をおろした。
少し冷たかった。
見上げると、星が綺麗に見えた。
そういえば、今日は満月なんだな。
さっきまでの月が嘘のように、金色に輝いている。
………そろそろ、家に帰らないといけないかもしれない。
今の私は、とても眠い。
それなのに、眠れる気分じゃない。
暖かいモノが頬を伝う。
私の顔から溢れるソレは、雨のように溢れ出した。
そして、溢れる雨粒が涙だと気付くのに、数秒かかった。
……なんで、いないの。
私の心は、それだけで満たされていた。
信じ難い光景だった。
しかも、割れ目の先には、見たことのない風景が流れている。
私は、恐る恐る手を伸ばした。
と同時に、何かが頭の中をよぎった。
わたしはここだよ。
囁くような、叫ぶような、そんな声だった。
私は、自分自身に問いかける。
もちろん、答えは……
覚悟の準備は既にできている。
私は、その割れ目に近づく。
そして、未知なる世界へ、
飛び込んだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!