第7話

11
2025/10/12 09:26 更新
太宰 治《青の時代》
ああ……退屈だなあ
あなた《青の時代》
この世界はなんて詰まらないんだろう
スツールから伸びた細い脚をぶらぶらさせる太宰双子。
双子は森の部下ではないしマフィアですらない。勿論隠し子でも、拾った孤児でも、医療助手でもない。
双子と森との関係を正確に言い表す言葉は存在しない。
あえて、現実に近い単語を用意するとするなら───運命共同体だ。
森 鴎外《青の時代》
そもそもだね、君達
森はため息をついて云った。
森 鴎外《青の時代》
君達は私が先代から首領の座を継承した時、その場にいた唯一の人間。つまり遺言の証言者なのだよ。
そう簡単に死なれては困る
3人が運命共同体となったのは、1年前のこと。首領専属の侍医であった森と、担ぎ込まれた自殺未遂患者に過ぎなかった双子が結託して、ある秘密作戦を実行した。
ポートマフィア先代首領の暗殺。
そして遺言の捏造だった。
太宰双子《青の時代》
アテが外れたね
双子が妙に澄んだ声で云った。
森 鴎外《青の時代》
何のことだい?
太宰 治《青の時代》
自殺未遂の患者を共犯者に選んだのは凄く良い人選だったのに
あなた《青の時代》
一年経っても、こうして僕達は生きている
太宰双子《青の時代》
おかげで不安の種は消えないままだ
一瞬、森は自分の内臓に、冷たい氷を押し付けられた様な気がした。
森 鴎外《青の時代》
……何の話をしているのかな?
あなた《青の時代》
判ってるくせに
太宰 治《青の時代》
不安の種っていうのは、先代暗殺が外部に漏れないかどうかの不安だよ
不安の表情は相変わらず内面を読ませない。氷点下の湖面のように静かだ。
_@_
…これがまだ十五歳の子供か?
国木田はぼそっとそう漏らした
国木田だけではなく武装探偵社の者全員がそう思って居るだろう
森 鴎外《青の時代》
アテが外れてなんかいない。君達と私とで、みごとに作戦を遂行してみせたあじゃないか。
一年前に。
大変だったから、もう二度とやりたくないけれどね
太宰双子《青の時代》
作戦は完了してない
双子は冷たい目をして云った。
あなた《青の時代》
作戦っていうのは、暗殺と遺言捏造に関わった人間の口が封じられて初めて完了っていうんだ。でしょ?
森の内側で感情が激しく波打った。
森 鴎外《青の時代》
……君達は……
少年少女の視線が、静かに森を貫いてくる。
まるで、人体内を透視する医療機器のように。
太宰 治《青の時代》
その点、僕達は共犯者としては適任だった
あなた《青の時代》
だって、誰もが疑わないから
太宰双子《青の時代》
僕達の証言で貴方が次の首領になった後──僕達が動機不明の自殺を遂げたとしても
医師と少年少女は、暫くの間、無言の視線を交わしあった。死神と獄卒が睨み合っているかのような瘴気が部屋に満ちた。
森の頭の中で、何度目になるか判らない単語が警報のように反響した。
計算違い。
お前は計算違いをした。
最適解を読み損ねたのだ。
この子供達は共犯者に選ぶべきではなかったのだ。
双子は底が知れない。彼等が時折見せる、悪夢めいた思考の鋭さ。観察眼。マフィアという鬼の巣の中にあって尚例のない、凍える怜悧れいりさ。
あなた《青の時代》
……なんてね
太宰 治《青の時代》
適当な思いつきを云って偉い人を困らせるのは楽しい
太宰双子《青の時代》
最近の娯楽です
双子はぼやっとした顔に戻って云った。
森はそんな双子を黙って観察した。
鋭いかと思えば、すぐにその怜悧れいりさを消す。何もかもを見通しているように見えた直後には、意味不明で理解不能な自殺嗜癖しへきで周囲を煙に巻く。
首領になるまで想像だにしなかったことだが、二人の言動はある人物を想起させた。
森 鴎外《青の時代》
君達に似た人を知っている
森は思わず云った。
太宰双子《青の時代》
誰?
首を傾げる双子の質問には答えず、森は小さく微笑んだ。
森 鴎外《青の時代》
兎に角、大人をからかうのはやめなさい。私が君達を口封じ?そんな訳が無いだろう。第一、私がその心算なら、とっくにやってる。呼吸より簡単にね。私が今年に入ってから何度目の自殺を阻止したと思ってる?
大変なのだよ、あれ。一度なんか椅子の下の爆弾を解除する為に、映画の主人公みたいな事までしたのだよ?
双子に死なれる訳には行かない。

プリ小説オーディオドラマ