ごそごそと音が聞こえる
日が暖かく差し込んで目を擦った
私のベットから降りたフランスは
少し欠伸をしてから戸を閉めて
階段をゆっくり下がっていった。
とにかく、
物色することは決定なんだな…
ドアの奥から声が聞こえる。
日本が騒がしい1階に向かう。
するとキッチンからはいいパンの香りが漂った
イタリアとフランスがまぁまぁ言い争いつつも
朝食を作り、寝起きのドイツとイギリスが険しい
顔をしていた。
一晩たって機嫌が良くなったイタリアは
自慢するように朝食を並べた。
フランスはイギリスにまだ何か仕掛けないの?
とでも言うように
アイコンタクトを取っている。
イギリスは少しフランスを睨む
それに懲りない様子でフランスは微笑んでいた。
イギリスは車はそこまで乗らない方なので
インパクトと自国の車を選ぼうとしていることに
イタリアは喜んでいる様子だ。
それを見てイギリスはまた眉間に皺を寄せた。
フランスが私に耳打ちをした。
" フランスさんが神経を逆撫でしてるからや "
と思いつつ、口には出さなかった
いきなりフランスの名前を呼ぶ
その声はいつもより低く驚いた。
……
………
いや、パンうっっま、、
どういうこと
いつも半額シールのやつしか食ってないからか??
めっっちゃ舌に染みる…
玄関から声がかかった、
よし、タイムリミットがいつだか分からないとにかく
漁ろう。
書斎に向かいフランスはその場の空気感から
顔を強ばらせる。
フランスがガラスの地球儀に触れると、
内部から光が灯され
書斎の空気が一段階だけ明るさを取り戻した。
闇が消えたというより、
影の輪郭がようやく輪郭として
認識できるようになった、そんな程度の光だ。
机の上には日誌が開かれたまま置かれている。
革表紙は乾ききっているのに、
綴じ糸だけが不自然に新しい。
日本はまずそこに視線を落とした。
文字は几帳面だが、
どこか呼吸を詰めたような硬さがある。
――Tutto è nelle mani di Dio。
フランスが小さく息を吸った。
ページをめくる。
続く文章は行政文書のように淡々としている。
日付、天候、来客の有無、ワインの銘柄。
国家の日誌というより、私人の生活記録だ。
だが、途中で唐突に文体が変わる。
_____
責任は分散されねばならない。
判断は個人に帰属してはならない。
_____
フランスの指が止まる。
日本は何も言わず、部屋を見渡した。
机の背後の本棚には、
先程見たダンテやマンゾーニが並んでいる。
『神曲』の背表紙は擦り切れ、『いいなづけ』
には何度も引き抜かれた跡がある。
だが、その隣に、明らかに異質な冊子が挟まっていた。
装丁は粗末、背表紙に題名はない。
代わりに、鉛筆で小さく数字だけが書かれている。
1943。
フランスがそれを抜き取ろうとした瞬間、
日本は気づいた。
本棚の下段、見えにくい位置に置かれた
小さな置物。
ローマの狼ではない。王冠でもない。
割れたファスケス――束ねられた棒の一部が、
意図的に欠けている
冊子を開くと、中は白紙に近かった。
だが、紙を透かすように光にかざすと、
消された筆跡が浮かび上がる。
インクを拭い取った跡。完全には消えていない。
共和国
社会
保護
その単語の並びに、フランスの表情が歪む。
日本は地球儀にもう一度触れた。
光がわずかに強まり、書斎の奥、
壁に掛けられた地図が見える。
イタリア半島全体ではない。
北部だけが強調され、
… 境界線が何度も書き直されている。
その下に、額装された一枚の紙。
王国の紋章が印刷されている。だが、
署名欄だけが空白だ。
フランスは言葉を切り、日誌に戻った。
この書斎は、
きっとイタリア王国のものだったんだろう。
だが、王国が見なかったふりをし続けた時間が、
家具や紙や置物の隙間に沈殿している。
サロは多分、ここの主ではない。
だが、影として、確かにここに残っている。
日誌の最後のページに、
前とは別の筆跡があった。震えていて、しかし強い。
それでも、僕はイタリアだ。
フランスは静かに本を閉じた。
日本は頷いた。
サロはここにいない。だが、
ここにいるイタリアは、
サロを知らないわけではない。
それは多分確定だ。
フランスが独り言のように言う。
日本は頷き、視線を再び書斎へ戻した。
灯ったままの地球儀が、部屋の中央で淡く光っている。
さきほど見つけたものが、まだ頭から離れない。
王冠、消された文字、そして少しだけ
見える引き出しの奥の鷲。
触れてはいけない場所に触れてしまった感覚が、
指先に残っていた。
私はそう言って、本棚の前に立った。
今度は、さきほどとは逆の端から。
注意深く、しかし確信をもって。
そのときだった。
玄関の方から、鍵の回る音がした。
一瞬、二人とも動けなかった。
フランスの声が低くなる。
続いて、ドアが開く音。靴底が床を叩く、
はっきりした足音。複数だ。
日本は反射的に地球儀へ手を伸ばしかけて、
止めた。今さら消すのは不自然だ。
消せば、逆に「何かあった」と
告白するようなものだ。
イタリアの声が廊下から響いた。
軽い調子だが、"どこか引っかかる。"
イギリスが何か言い返しているが、
言葉までは聞き取れない。
ドイツの足音は無駄がなく、
まっすぐこちらへ向かってきているのが分かる。
フランスは即座に本を戻した。
完璧ではない。が、
急いだ痕跡を最小限に抑える動きだった。
日本は引き出しから一歩離れ、机の脇へ立った。
触れていない。触れていないが、
見てしまった
という事実だけが、部屋の空気をわずかに
歪めている。
ドアノブが回り、書斎の扉が開く。
イタリアが入ってくる。その後ろに
俺は悪くないという顔のイギリス、
少し遅れて罪悪感たっぷりの顔のドイツ。
イタリアの視線が、無意識のうちに机の上を
一巡する。
王冠、
日誌、
地球儀。光っていることに、
ほんの一瞬だけ眉が動いた
フランスは即答した。嘘ではない。
イタリアはそれ以上追及しなかった。
代わりに、机の端に置いてあった手袋を手に取る。
最初から"そこ"にあったかのように、自然な動作で。
イタリアとイギリスが話す中、
ドイツは何も言わない。ただ、
書斎を一度だけ見渡した。
視線が、引き出しの位置でほんの一瞬止まったの
を、日本は見逃さなかった。
だが、ドイツは何も言わず、踵を返した。
再び三人の足音が遠ざかる。ドアが閉まり、
鍵がかかる音がした。
完全な静寂が戻る。
フランスは、ようやく息を吐いた。
日本は黙っていた。
この家は、
忘れたものと、忘れたふりをしているものと、
忘れられなかったものが、
きれいに住み分けられている。
そして今、自分たちは、
その境界を踏んでしまった。
地球儀の光は、まだ消えなかった。
まるで、次に思い出されるべきものを、
待っているかのように。
_____ 面影











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。