第35話

#35.傷痕の埋め方
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2024/03/08 09:42

社会人そま→てる

てるさんが元彼らしき人を引きずっています。


そまさんがてるさんの後輩設定(大学からの)。

酒弱い組の癖に飲酒させました。反省はしてます。でも後悔はしてません。


2人が焼肉屋で会話してるだけ

『てると、付き合って』
『……どこまで?』


『……死ぬまで。』
てると
僕はね、そうまくん
てると
その人の何処が嫌いかより、何処が好きかの方を多く言える人ほど、その人のことを愛してないんだと思うんだ
トングを持って肉を裏返しながら先輩がそんな事を言うもんだから、頭の中で反復する
徐にレタスを頬張った
そうま
……俺はてるとさんの嫌いなところより好きなところの方が多く言えますよ
てると
じゃあ君は僕のことをあまり好いてくれていないんだろうね
そうま
いや好きっすけど
てると
………
てると
君、博愛主義ってよく言われるだろう
そうま
こんなこと言うの、てるとさんにだけですよ
てると
はは、まるで口説かれてるみたいだ
そうま
口説いてるんですけど
てると
…………
てると
少なくとも、焼肉屋で言うことじゃあないね
そうま
へふほふぁん、ふぁふふぃふふぁふぁい
てると
……カルビね、はい
そのカルビを米と一緒にかきこみ、麦酒を呷ると店員さんを呼んだ
そうま
白米大盛りとー…
……生2つ。
畏まりました〜と去っていく店員さんを横目に、俺もタン塩を焼き始める
てると
……僕、呑む気ないんだけど
そうま
いいじゃないですか、たまには
ね?と顔をのぞき込むように小首を傾げると、態とらしく溜息をつかれた
てると
酔わせて美味いネタ吐かせようったってムダだよ。君の満足する答えを僕は持ち合わせてないだろうから
そうま
はは、まさかまさか
彼は銀色の橋で焼けた肉をつまんだ

耳に横髪をかける仕草を見て、自分でも気分が急降下したのに気づく
そうま
………
そうま
そのピアス、いつまでしてるんですか
てると
……ああ、これ…
てると
そうまくん、大学生の頃からそんなことばっかり聞いてきたよね
そうま
……引くほど似合ってませんでしたから
てると
酷い言われようだ
そう笑いながらてるとさんは肉を頬張る。カルビがお気に入りらしかった。
そうま
俺、貴方にピアスのプレゼントめちゃくちゃしましたよね。
てると
ああ、だから有難く着けさせてもらってるよ。
そうま
………やっぱり、片側だけ…
反対側の横髪が耳にかかり、俺があげたピアスが覗く

彼は大学生の頃から、片側だけしかピアスをしていなかった。
そうま
………
そうま
なんで、俺のじゃ無い方、外してくれないんですか
てると
なんで外してほしいの?
そうま
……似合ってないから
てると
似合ってなくても、僕は結構気に入ってるんだよ?コレ。
そうま
なら別の理由にします。貴方が他の男を纏っているのが気に入らない
てると
………
てると
気づいてた?
そうま
想い人が自分じゃない人を想っていることくらい、すぐに気づきますよ
まるで心の穴を埋めるように、ピアス穴にピアスを通していたことも

時折誰かを懐かしむように、耳を触るのも

きっとその相手が男なんだろうということも
そうま
……元カレ、ですか
てると
違うよ
そうま
え、
真っ向から否定する姿に、思わず声が出る
相変わらず目の前の彼は米を咀嚼しているだけだった
てると
確かに僕は彼に恋をしていたし、彼も僕に『付き合ってほしい』って言った。でも僕らは恋仲じゃなかった。
そうま
どういう、ことですか
てると
甘やかしも甘えもしなかったし、手も繋がなかった。体を重ねもしなかった。
指折りに数えるてるとさんに、憂いの表情も儚さもなかった。

ただ今日の出来事について喋る青年に見えた
そうま
……てるとさんはその人のこと、好きだったんですか
てると
………『好き』…
てると
僕はどちらかと言えば、あの人のことを嫌ってたよ。真っ直ぐで意地っ張りの癖して、どこか臆病な彼のことが、たまらなく嫌いだった
てると
……ただ、それが彼に恋をしない理由にならなかっただけ。
何処か遠くを見つめて思い吹けるようなその表情も、目の前の彼が愛した"誰か"の残滓なのだろう。

彼が毎日のように埋める、左耳の傷痕と同じように。
する、と彼の手をとる。翡翠の瞳が丸くなった
そうま
………
そうま
俺の方が、幸せにしてやれる。と言ったら、どうします?
てると
……僕は、
生2つと白米大盛りでーす
そうま
……ありがとうございます
てると
………ありがとうございます
てると
………
かたりと置かれたジョッキにてるとさんは手を伸ばし、イッキに呷った
そうま
お、おお……
てると
……っ、ぷは、
てると
………
てると
僕は、幸せになりたくてあの人を想ってるんじゃないから。付き合うメリットに"幸せ"があっても僕はどうも思わない
そうま
……それはまた、随分…
てると
まあ別に、あの人が幸せを与えてくれなかった訳じゃないけどね
ほら、旅行行った時の写真、とスマホを目の前に置かれる
恋人同士、というよりは親友のような距離感の2人は、互いにとても笑顔だった
そうま
……イケメン、すね…
てると
ははは、喜ぶよきっと
そうま
俺の方が身長ありますよね。俺にしません?
てると
口説き文句がもうそれしかないのか?そうまくん、酔いが回ってきたんだろう
そうま
………
そうま
好きです…
そうま、撃沈。
てると
うん、僕も好きだ
そうま
でもそれは、俺に恋をする理由にはならないんでしょ
てると
……そうだね
てると
きっと、君が僕に抱く恋心も一時的なものだと思うよ。中学生の頃とか、年上の先輩に憧れて崇拝する時期、あるだろ
そうま
おれはもう20半ばですよ?!?!
立派な大人です!と猛抗議すれば、はいはいとあしらわれる
残っているハラミを白米に大量に乗っけ、麦酒で全て流し込んだ。

てるとさんはユッケを食べていた。
そうま
……俺が払います。俺が誘ったんで。
てると
後輩に奢られるほどヤワじゃないな
そうま
好きな人にカッコイイとこ見せたいんで
そろそろお開きかというところで勃発した伝票の奪い合い。

心做しかてるとさんのこめかみにも青筋が。
てると
………
てると
そうまくん
そうま
……なんですか。
てると
聞き分けてくれ、
てると
立派なオトナ・・・。なんだろ?
そうま
……くっ、
先程の話題を掘られ、伝票から手を離す
よろしい、と伝票とカードを持ってレジへ向かうてるとさんの背中を眺める

会計をしている彼より先に店の外に出ると、絵の具をぶちまけたかのような空が広がっている
ところどころ雲が散らばっていた
そうま
……こりゃ明日は雨かな
肌寒い気温が熱い頬を充分に冷ましてくれる
会計を済ませてくれた彼に会釈をすると、わしゃわしゃと頭をかき混ぜられた
そうま
………犬じゃないんですから
てると
はは、
行こうか。

そう歩き出す彼が向こうをむく瞬間見えた光がどうも落ち着かない。
彼の左側に周り、隣を歩く
そうま
……やっぱり外しませんか。それ。
てると
……なんで外してほしいの?
そうま
………
そうま
それを着けてる貴方が、嫌いだからです
てると
………
てると
生憎、僕は好きなんだ
筋の通った綺麗な横顔

湿った瞳が夜の街に溶けていく
揃いのピアスを着けてる"誰か"が酷く羨ましい
傷痕をピアス1つで埋めることのできる燦然とした存在でいるのが羨ましい。

隣を見ると、目にうつるる目映い輝き



写真に写っていた男の瞳と酷似した、ペリドットのピアスが







憎いほどに、眩しかった。

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